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窮奇退治は昌浩の完治まで、延期が決定した。敵はあの大妖怪、なるべく万全の状態で挑みたい。 昌浩が養生している間、一度だけ彰子が見舞いに来た。 自分がさらわれたせいで、昌浩が重傷を負ったと彰子は酷く気に病んでいた。 昌浩は彰子は励まそうと、必死に明るい話題を振った。その中で、彰子が蛍を見たことがないと言った。蛍の時期はとうに過ぎていたので、ならば来年一緒に蛍を見に行こうと昌浩は約束した。 その間、ヴィータが歯ぎしりせんばかりに不機嫌だったのに、昌浩は最後まで気がつかなかった。 数日もすると、昌浩は起き上がれるようになった。激しい運動は厳禁だが、それ以外の行動は大体許されている。シャマルの治癒術は本当に素晴らしい。出来るなら教えてもらいたいくらいだった。 昌浩は書物と睨めっこをしながら、円盤状の物体をからからと回していた。 「何してんだ?」 ヴィータが昌浩の手元を覗き込む。 昌浩が目が覚めましてからというもの、ヴィータは食事を運んでくれたり、何かと世話を焼いてくれる。あまりに優しいので、昌浩の方が戸惑っていた。 「これは占いの道具なんだ。窮奇の居場所が占えればと思ったんだけど」 結果は芳しくない。それにこれくらいのことは晴明がとっくにやっているだろう。晴明すらわからないことを、昌浩がわかるわけない。 「占いねぇ」 ヴィータは占いという奴がどうも信じられない。未来が本当に予知できるなら、未来はすでに決まっていることになる。努力するもしないもすべて決まっている。ならば、心は何のためにあるのか。 「あ、疑ってるな。よし、ならヴィータの未来を占ってやる」 昌浩が道具に手を伸ばす。 「おもしれぇ。やってみろ」 円盤がからからと回り、結果を示す。昌浩はじっとその結果を読み取ろうとする。 無言のまま、時間だけが過ぎていく。 「おい」 昌浩は真剣な顔のまま答えない。そのあまりに真剣な様子にヴィータが不安になる。 「まさか、よくない結果が……」 「ごめん。わからない」 「うーがー!」 ヴィータが吠えた。 「さんざん待たせて、なんだよ、それは!」 「ご、ごめん、だって見たことない形だったから」 昌浩は本で頭部をかばう。 「もう少し時間をちょうだい。きっと占ってみせるから」 「まったく。それでも晴明の孫かよ」 「あー! ヴィータまで孫って言ったー!」 「いやー。この台詞一度言ってみたかったんだよ」 「孫言うな!」 憤慨する昌浩を、ヴィータはきししと笑う。ふとその顔が疑問に染まる。 「お前、今何て言った?」 「孫言うな」 「その前だよ」 「えーと、ヴィータまで孫って言った、だったかな?」 「お前、名前……」 「ああ、ヴィータだよね。やっと言えるようになったよ」 昌浩はにっこりと笑う。 「いやぁ、苦労したよ。毎晩ヴィータ、ヴィータ、って繰り返し練習して」 ちなみにザフィーラの名前はまだ練習中だ。 「ヴィータ。これで合ってるんだよね?」 ヴィータの拳が昌浩の頭を叩く。 「な、何すんだよ、ヴィータ」 昌浩が頭を押さえてうずくまる。 ヴィータは拳を握りしめたまま、全身を震わせていた。 「ヴィータ?」 「気安く呼ぶんじゃねぇ!」 ヴィータが再び拳を振り下ろす。その顔が真っ赤に染まっていた。 「どうしたの、ヴィータ?」 「だから、繰り返すな~!」 ドタバタと暴れる音が屋敷中に響いていた。 「いやー。春だねぇ」 「夏だがな」 「連日快晴だねぇ」 「それはその通りだ」 もっくんとザフィーラは、昌浩の部屋の屋根の上で並んで日向ぼっこをしていた。 「昌浩についていなくていいのか?」 「そんな野暮はせんよ」 もっくんが後ろ脚でわしわしと首をかく。本人に自覚があるかどうかは知らないが、ヴィータの気持ちは傍から見れば明らかだ。 「すまんな。気を使わせて」 「いや、昌浩にとってもいいことだ」 「ほう。もっくんはあの彰子とかいう娘を応援しているのかと思ったが?」 「おっ。堅物かと思いきや、話せるねぇ。ただし、もっくん言うな。俺のことは騰蛇と呼べ」 「心得た」 「それで彰子に関してだが、結論から言って、あの二人は絶対に結ばれない」 もっくんは一転、厳しい表情になる。 「どういうことだ?」 「身分が違い過ぎる。かたやこの国一番の貴族の娘。かたやどうにか貴族の端に引っかかっている昌浩。あり得ないんだよ、この二人が結ばれるなんて」 「身分とはそんなに大事なのか?」 しょせん同じ人間ではないか。気にするほどの差があるとザフィーラには思えない。 「そうだな。お前たちの主は女か?」 ザフィーラの緊張が一気に高まる。 失言だったと、もっくんは詫びた。 「お前たちの主を詮索しようとしたわけじゃない。例えば、お前たちの主が女だったとしよう。もしお前が主に恋愛感情を抱いたら、どうなる?」 「なるほどな」 ザフィーラは遠い目になった。彼のはやてを敬愛する気持ちに、一片の曇りもない。しかし、それは決して恋愛感情ではない。 ザフィーラはあくまで守護獣、人間ではない。そんな自分と主が結ばれることはない。それなのに、主に恋心を抱けば、それはまさに地獄だろう。 「つまり、この国で身分とはそれほどの差ということだ」 しかも、彰子と天皇の結婚の準備が進められているという。晴明の占いでも、それはすでに決まった運命ということだった。もし運命を変えられる力があればと、もっくんは己の無力をこれほど呪ったことはない。 失恋から立ち直る一番早い方法は新しい恋を始めることだ。昌浩を好きなヴィータがそばにいてくれれば、これほどありがたいことはない。 「しかし、我らは……」 「わかっている。窮奇を倒したら帰るんだろう。それでもいいんだ。立ち直るきっかけになれば。それに二度と来れないわけじゃあるまい?」 「それもそうだな。その時は主も連れてこよう。きっと喜ばれる」 そう、きっと大丈夫だとザフィーラは思った。いつか主を含めた全員でこの地を訪れることができる。その時は、闇の書も完成し、主の命も助かっている。時空監理局から追われることもなくなっている。 我ながら虫のいい考えだと知りながら、そんな未来が来るのを願わずにいられない。 ザフィーラともっくんは雲一つない空を見上げた。 その頃、庭ではシグナムが見知らぬ女と対峙していた。女は黒い艶やかな髪を肩のあたりで切りそろえ、この時代では珍しい丈の短い服を着ている。十二神将の一人だろう。 六合と稽古の約束をしていたのだが、六合の姿はない。 「私の名は勾陣(こうちん)。六合は晴明の供で行ってしまってな。代わりに私が来たというわけだ」 「そうか。では、今日の相手は勾陣殿が?」 「ああ。せっかくだから、少し趣向をこらさないか?」 勾陣は三つ叉に別れた短剣を両手に持ち、宙を切り裂いた。空中に裂け目が走り、シグナムの体がその中に吸い込まれる。 シグナムが目を開けると、そこは砂と岩ばかりの荒涼とした大地が広がっていた。 「次元転移?」 「ここは我ら十二神将が住む異界だ。稽古もいいが、ここなら思う存分暴れられるぞ」 勾陣が口端を釣り上げる。氷のように鋭い酷薄な笑みだった。 シグナムも勾陣と同じ笑みを浮かべる。 「なるほど。より実戦的にというわけか」 「それと最初に言っておく。私は六合より強いぞ」 「面白い。では、いざ尋常に勝負!」 シグナムのレヴァンティンが炎をまとい、勾陣の魔力が炸裂する。 普段は静かな異界に、その日はいつまでも爆音が轟いていた。 夕刻、帰宅した晴明は昌浩の部屋に向かった。天皇と彰子の結婚が正式に決まったということだった。後は日取りを決めるのみ。今すぐということはないが、もはや二人の結婚は避けられない。 薄々感づいてはいたのだろう。昌浩は「そうですか」とだけ呟いた。 それからさらに数日が過ぎた。 昌浩は表面上は明るく振舞っていたが、時折沈んだ表情や物思いにふけることが多くなった。そして、以前にもまして窮奇を倒すべく猛勉強を始めた。まるで勉強に打ち込むことで、何かを忘れようとしているかのように。 早朝、昌浩は目を覚ますと素早く着替える。怪我の為、長期休みになってしまった。同僚にも迷惑をかけたし、今日は出仕するつもりだった。晴明から頼まれた仕事もある。 「よし。完全復活」 「ほう。よかったじゃないか」 今日はよほど早起きしたのか、ヴィータが戸口に立っていた。 「うん。これもヴィータたちのおかげだよ。本当にありがとう」 シャマルの魔法とヴィータの看護がなければ、まだろくに動けなかったに違いない。 「いやー。そう言ってもらえると、こっちもありがてぇよ」 ヴィータはのしのしと部屋に入ってくる。ヴィータは指で昌浩に座るように示す。 「大事な話?」 昌浩はまだ気づいていない。ヴィータの目がまったく笑っていないことに。 ヴィータは深く息を吸い込み、 「この大馬鹿がー!!」 大音量が安倍邸を揺らした。昌浩は耳を押さえて顔を引きつらせる。 ヴィータは指を鳴らしながら、昌浩に詰め寄る。 「お前が治る日を、どれだけ待ったことか。怪我人を怒鳴りつけるのは趣味じゃないからな。これで思いっきりやれる」 晴明から託された昌浩を叱る役をヴィータは忘れていない。それどころか世話を焼くことで、怒りが鎮火しないようにしていたのだ。ヴィータの怒りは最高潮に達していた。 「あの……ヴィータさん?」 「やかましい! そこに正座」 「はい!」 「大体お前は自分が怪我をしてどうするんだ。助けるにしたって、もっと上手くやれ!」 「いや、でも」 「言い訳するな!」 「ごめんなさい!」 ヴィータが機関銃のように怒鳴り続ける。昌浩はそれを黙って聞くしかなかった。 それから一刻の後、もっくんが昌浩の部屋を訪れと、晴れ晴れとした顔でヴィータが出てきた。 「いやー。ようやくすっとしたー」 もっくんが部屋の中を覗き込むと、そこには真っ白に燃え尽きた昌浩がいた。 その夜、昌浩が仕事を終えて帰ると、シグナムたちは晴明の部屋に集められていた。 「昌浩や。彰子様には会えたのか?」 「はい」 昌浩は寂しげに笑う。晴明の取り計らいで、昼頃、昌浩は彰子と対面していた。そこで昌浩は彰子に絶対に守ると誓った。誰の妻になってもいい。生涯をかけて彼女を守る。それが昌浩の誓いだった。 「それで窮奇の居場所は?」 「はい。貴船山だと思います」 都の北に位置する貴船山。そこには雨を司る龍神が祭られている。 窮奇が北に逃げたのと、ヴィータたちが来てからというもの、一度も雨が降っていない。それが根拠だった。おそらく窮奇によって封印されているのだろう。 「ならば、一刻の猶予もないな」 シグナムにとって、ここは楽園だった。六合や勾陣、他の神将たちとも、実は紅蓮とも、幾度も手合わせした。こんなに心躍る相手がいる世界をシグナムは知らない。 「そうだな」 ヴィータとて離れがたい気持ちはある。 しかし、八神はやてを救う為、二人は未練を振り切って立ち上がる。 「はやてちゃんの為にも、お願いね、みんな」 シャマルが転送の準備を開始する。それをザフィーラが咳払いで遮る。 シグナムとヴィータがじと目でシャマルを見つめていた。 「あっ」 うっかり、はやての名前を口に出してしまっていた。だらだらと脂汗がシャマルの顔を滴る。ちなみに、ヴィータは以前自分がはやての名前を出しことを覚えていない。 「わしは何も聞いておりませんぞ。なあ、昌浩や」 「えっ? ……ああ、はい。俺も何も聞いてないよ」 「二人とも、気を使わせてごめんね」 シャマルが涙目で感謝の意を告げる。 やがて緑の魔法陣が足元に出現する。 昌浩、もっくん、シグナム、ヴィータ、ザフィーラが、最終決戦の場へと飛んで行った。 その頃、アースラ艦内では、クロノたちが出撃の準備を進めていた。 「それでヴォルケンリッターの動きは?」 「それが変なの」 クロノの質問にエイミィが首を傾げた。 「あの世界、時間の流れが全然違うみたい」 アースラでは、クロノたちが青龍たちと戦ってから、一晩しか経っていない。それなのに、向こうでは半月以上の時間が経過しているようだった。 どうもその間、ヴォルケンリッターたちは原住生物と戦い続けているらしい。 「闇の書もかなり完成に近づいたということか。みんな、準備はいいか?」 クロノが集まったメンバーを見回す。 ユーノにアルフ、青い顔をしたなのはとフェイト。 「な、なのは、どうしたの?」 ユーノがなのはの顔を心配そうに覗き込む。 「ちょっとイメージトレーニングを」 なのはは車酔いをしたかのようにふらふらしていた。 青龍に備えて、父と兄に怒られた時のことを一晩中ずっと思い出していたのだ。 「フェイト、しっかりおしよ」 「……アルフ、大丈夫よ」 フェイトの使い魔のアルフが、フェイトの体を揺さぶる。それにフェイトは消え入りそうな声で答えた。 「エイミィ」 クロノが無言で逃げようとしていたエイミィの腕をむんずとつかんだ。 「フェイトに一体何をした?」 「ええと、頼まれてあの戦いの映像をちょっと……」 フェイトはフェイトで、あの戦いの映像を一晩見続けたのだ。しかもエイミィの好意で、男連中の顔を大写しにした編集版を。 苦手意識を克服しようと無理をすれば、かえって悪化する場合がある。なのはたちの負けず嫌いが今回は完全に裏目に出た。 クロノはユーノとアルフをつれて、部屋の隅に行った。 「いいか。男連中の相手は僕らでやる。二人には絶対に近づけるな。最悪、一生のトラウマになる恐れがある」 ユーノとアルフが決意を込めた表情で頷く。 そして、五人は転移を始めた。 目次へ 次へ
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余裕 「彼」が立っていたのは森の中。 夜の冷たい風が吹きぬけ、がさがさと葉がこすれあう風景は、これから始まる狂気の殺人ゲームの空気を的確に表現する。 しかしながら、「彼」はその場に似つかわしくないほど、ひどく落ち着いていた。 「…ひとまず、支給品とやらを調べてみるか」 「彼」――セフィロスは、持っていたデイバッグをどんと地面に置くと、その中身を調べ始めた。 目の前で唐突に命を奪われた、金髪の少女と鎧の男。 明らかに異常な光景だったが、それは彼の心を震わせるには至らない。 何故なら、当にセフィロスは殺しまくっていたから。 軍人だから、というわけではない。 確かにソルジャークラス1stという栄光は、彼が斬り伏せた数多の人間の血によって塗り固められたものである。 しかし、この男の「殺した」とは、そういう人が人を殺すこととは違う。 強いて言うなら、道端を歩く虫を殺すのと同じ感覚。 セフィロスにとっての人間は、犬や猫などの動物と同じ。 何故なら、当のセフィロスが人間ではないのだから。 「武器として使えるのは――これか」 『 クロスミラージュ 「機動六課」前線フォワード部隊の一員が用いる、拳銃型インテリジェントデバイス。 通常形態のガンズモード、クロスレンジ用のダガーモード、ロングレンジ用のブレイズモードに変形』 見覚えのある武器だったのは幸いであろう。 これはティアナの使用している二挺拳銃のデバイスだ。 各種レンジに対応したモードが備え付けてあり、あらゆる戦況でそつなく使用することができる。 しかし、それでも尚、セフィロスには腑に落ちないところがあったようだ。 「…よりにもよって銃か…」 ソルジャーは銃を使わない。彼らの超人的な肉体を活かすのは、銃ではないからだ。 普段剣で戦っている彼にとって、銃はあまり使い慣れたものではない。どうしても不便な印象が残る。 ダガーモードがあるだけましかもしれないが、それも正宗に比べれば絶望的なリーチ差だ。 せめてレヴァンティンならばよかったのだが。 そんな思考が、セフィロスの脳裏をよぎった。 愚痴っていても始まらないので、彼は再び荷物を漁り始める。 新たに見つけたのは、1枚の紙切れ。 一般に言うトレーディングカードゲームだ。聖職者のような服装をした、中年の女性が描かれている。 『 治療の神 ディアン・ケト デュエルディスクにセットすることで発動可能。自分のライフポイントを1000回復する』 ライフポイントを回復する、ということは、要するに治療のためのものなのだろう。 セフィロスはそう解釈することにした。 「それにしても…何故そのデュエルディスクとやらも付属していないんだ…」 そしてまた愚痴をこぼし、ため息をつく。 それらしいものが見られない以上、どうやら今のところ、この治療用具は宝の持ち腐れらしい。 まったくもって装備に不満が多すぎる。 しかし、これが基本なのだろう。でなければゲームとしては面白くない。 少なくとも、傍観している側からは。 ならば、欲しいものは相手から奪い取れ、ということか。 「…クロスミラージュ・セットアップ」 セフィロスはそう呟き、待機状態のクロスミラージュをアクティブにする。 すぐさま、ティアナが愛用していたハンドガンの片割れが姿を現した。 「今は俺がお前を使うことになっている」 『Yes,Sir.』 あまりにあっさりとした返答だ。 普通の人格型デバイスなら、持ち主以外が使用する時には何らかのリアクションを示すだろう。 であれば、何らかの改造が施されているということか。 メモリーを消去するなり、あるいは、誰が所有者であろうと命令を聞くようにするなり。 「技は何が使える?」 だとすると、機能の方にも何らかの変化があるのかもしれない。 そう判断し、ひとまずセフィロスは問いただす。 『クロスファイアシュート、ファントムブレイザー、…』 読み上げられた名称は、全てティアナが用いていた技のもの。 どうやら彼女個人のテクニックである幻術魔法以外は、一通り使用できるらしい。 「十分だ」 そう独りごちると、セフィロスはデイバッグを持ち上げた。 そのまま周囲を見回し、適当な木の洞を見つける。 そこそこに大きな木の根元にぽっかりと空いたそこは、人1人が入るには申し分ない大きさだ。 セフィロスはそこにデイバッグを投げ入れると、自身もその中に入り、どっかと腰を落ち着かせた。 あぐらをかいて座ること数分。参加者の名前が載った名簿を読むことすらしない。 『どうされるつもりですか、サー?』 クロスミラージュが問いかけた。 常人を遥かに凌駕した、侵略者ジェノバの力をその身に宿す魔人。 そのセフィロスは、今後この狂気渦巻く戦場でいかに立ち回るつもりなのか、と。 「特に何も」 返ってきた返事は、あまりに予想外なものだった。 『What?』 無口なはずのクロスミラージュが、たまらず聞き返す。 「俺は特に何もしない。じたばたするよりは、周りが殺し合ってくれた方が楽に生き残れるだろう」 セフィロスはそう答えた。 彼は知っている。 こういう極限状態ならば、必ず何人かは、制限時間切れの死亡を避けるために進んで殺人者となることを。 自分が無理に動く必要はまるでない。手間がかかるだけだ。 普通は思いつかない戦術。それをすんなりと思いつけるほどに、セフィロスは落ち着いていた。 人が死んだ? 目の前で殺された? そんなこと、元より知ったことではないのだから。 『もしも、敵に見つかった時は?』 「さすがにその時は反撃するまでだ」 逆に、自分が誰かを殺すことにも心は痛まない。 そもそも彼にとって殺人は願望だ。自分の住む星の人間を皆殺しにし、支配することがジェノバの――そして、セフィロスの悲願。 『仮に、お知り合いが攻撃を仕掛けてきた時は?』 クロスミラージュは尚も問いかける。 脳裏に浮かぶのは、機動六課で共に戦った者達。あの会場にも見られた、孤独な自分を受け入れてくれた人達。 ジェノバとしての使命を受け入れて以来できた、初めての仲間。 誰よりも、全てのきっかけとなった、あの短い茶髪の女。 「…どうにでもなるさ」 しかし、非情な声で、セフィロスは答えた。 【一日目 AM0 13】 【現在地:H-1 森林】 【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 [状態] 健康 [装備] クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS [道具] 支給品一式・魔法カード「治療の神 ディアン・ケト」@リリカル遊戯王GX [思考・状況] 基本 事態を静観し、潰し合うのを待つ 1 とりあえず禁止エリアだけを警戒すればいいか 2 向かってくるのならば、六課の連中だろうと問答無用で殺す 3 一応食料は探しておこう [備考] ※能力・思考基準はゆりかご攻防戦直前です ※ヴァリアブルバレットは、コツが分からないので使用不可です 002 本編投下順 004
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第三話「混戦」 12月2日 1955時 海鳴市 市街地 時間は、なのはとヴィータが衝突する少し前に戻る。 宗介はゴーストタウンと化した市街地を混乱しながら走っていた。 (一体何が起こっている?) つい先ほど前まで辺りは人で賑わっていた。だが今はどうだ? 自分がよく知った中東の廃墟のように辺りは、がらんとしている。 さらに分からないのは護衛対象が空を飛んでいたことである。 (俺は夢でも見ているのか?) が、すでに自分の頬を三度もつねった。 これは夢ではない、現実だ。 仕方なく自分を信じて対象が飛び去った方向に走ってゆく。 「ケット・シー、聞こえるか?応答せよ」 別の場所からヴァーチャーを監視・尾行していた情報部員に通信を入れても応答はない。 通信機は先ほどから空しいノイズを垂れ流すだけだ。 (通信機の故障、いやジャミングされている?) 様々な可能性を考えているうちに、オフィス街に差し掛かった。 完全に対象を見失ったか? そう思っていると突如ビルの外壁が崩れ、巨人が現れた。 あれは・・・ 同日 2004時 海鳴市 オフィス街 敵に止めの一撃を刺そうと、アイゼンを振り下ろすヴィータはビルを揺らす衝撃にバランスを崩した。 「な、何だ!?」 突如背後の外壁が吹き飛び、巨大な手が出現する。完璧な奇襲をくらったヴィータは回避する間もなく その手に捕まってしまい遠くに投げ飛ばされる。そうして、初めて自分に起こったことに気付く。 ビルの三階ほどある高さの巨人が背後にいきなり現れたのだ。 マッシブなシルエットに灰色の装甲、頭部から伸びるポニーテールが異彩を放ち、禍々しい印象を与えていた。 腰に2本の大型ナイフが保持されている。 「何だ、こいつ?管理局の傀儡兵か?」 傀儡兵はゆっくりこちらを向き、大型ナイフ―――ヴィータは知らないがGRAW-3という 名称の30ミリ機関砲つきの単分子を構え、発砲。 ヴィータはすんでの所で回避に成功する。 いきなり警告なしの攻撃は管理局らしくない。そもそも質量兵器を使ってること自体あいつららしくない が、そんなことを考えているうちに敵の傀儡兵は砲弾をばら撒いてきた。 「く、一体なんだって言うんだよ!」 ビルの中で苦痛に喘いでいるなのは。リアクティブ・パージのおかげでダメージが 最小限になったとはいえ、背後の壁に衝突した痛みは小学三年生には耐え難いものだった。 なんとか立ち上がろうとしたところで天井の一部が崩れなのはの上に落ちてくる。 傷ついた体で避けることもできず、反射的に目をきつく瞑る。 ? だが、いつまで経っても来るはずの衝撃は来ない。 ゆっくりと目を明けると破片は緑と金色の波紋状の膜によって受け止められていた。 「ゴメン、なのは遅くなった。」 バリアを展開しながら女顔の少年ユーノは、なのはの肩に手を乗せた。 「ここまで来るのに手間取って」 黒い外套、金髪のツインテールの少女フェイト・テスタロッサは申し訳なさそうに言い バリアの角度を変え、少し離れた場所に建材を落とす。 「急になのはが住んでる地区に大規模な結界魔法が発生して急行したんだけど 結構離れた場所にいたから遅くなった。ゴメン。」 「ううん。来てくれて嬉しいよ。フェイトちゃん、ユーノ君」 「取り合えず、ここを出よう。また崩落が起きたら厄介だ。」 ユーノは、なのはを担ぎフェイトと共にビルから出る。 (フェイト、フェイト。あの傀儡兵、なのはを襲った奴に攻撃してるよ) 念話を使って、フェイトの使い魔であるアルフがここから少し離れた場所で起きている戦闘を伝えてくる。 傀儡兵は持っている銃剣を襲撃犯に発砲しており、そのせいで襲撃犯はなかなか攻撃のチャンスに移れていない。 脱出するなら今がチャンスだ。 「ユーノ、この結界から今すぐ転移魔法を使って脱出できる?」 「ちょっと待って・・・・・・駄目だ。出る分は、また別の転送魔法を編まなきゃいけないみたいだ。」 「どれくらい掛かりそう?」 「アースラのバックアップが無いから何とも言えないけど、20分以上かかるよ。 邪魔が入らなければの話だけど。」 「分かった。それまで私とアルフでなのはとユーノを守る。」 宗介は、それを見るとすぐ様物陰に隠れた。 (なぜヴェノムがここにいる?) そんなことを考えていたが、すぐさまマオに通信を入れる。 「ウルズ2、マオ聞こえるか?こちらウルズ7、応答せよウルズ2」 最初はノイズが走り、またも無反応に思われたが今度は繋がった。 『こちらウルズ2、どうしたウルズ7』 「市街地中心から少し離れたオフィス街でヴェノムが出現した。 俺の装備では歯が立たない。こっちに来てくれ。」 『何言ってるの?・・・・いや分かった、至急そちらに向かう』 最初は、冗談だと思っていたマオも通信の向こうから聞こえてくる機関砲の砲声を聞き それが紛れもない事実だと理解した。 『日本の市街地でASって、奴ら正気?この時間帯なら目撃者は膨大な数になるでしょうに』 「それは分からん、辺りには誰もいないんだ。それと敵の主武装はGRAW-3単分子カッターだ。 早く来てくれヴァーチャーが巻き込まれかねん。」 辺りは崩れたビルの破片で煙が立ちこめ、宗介はヴェノムが発砲している先に 何があるのか確認することはできなかった。 『分かった。ソースケ、アンタは私と交代よ。』 宗介の見立てでは、近くの河川を利用して全速力で移動すれば5分以内に来れるはずだ。 それまでASの注意を逸らしたいが敵の前に出るのは自殺行為だ。 おまけにこちらは、9ミリ拳銃と予備弾倉が3つ、手榴弾が3つ、クレイモア地雷が一つ アーミーナイフ、投げナイフと各種薬物だけだ。 これで、ASの相手は無理だ。 断腸の思いで宗介は対象を探し離脱する為、その場から離れた。 ヴィータは傀儡兵が放つ砲弾を回避するのに専念していた。 フルオートならば毎分300発、しかも音速並みの速さで飛来する砲弾だ。 当たれば痛いでは済まない。即座に血煙にされてしまうだろう。 今まで避けてこれたのは回避に専念してきた事と相手の狙いが甘い為だろう。 だが、その均衡も長くは続かなかった。傀儡兵が発砲した砲弾がヴィータの背後のビルに命中し 建材の破片がヴィータに降りかかってしまい足が止まってしまう。 その隙を突いて、傀儡兵は一瞬にして間合いを詰めてヴィータに切りかかる。 「しまっ」 回避も弾くことも間に合わない。ヴィータは目の前に迫る白刃を見つめるしかできなかった。 やられる。そう思った瞬間、目の前に白いジャケットを羽織った背中が現れ・・・ 「はああああ!」 凄まじい金属の衝突音と共に巨人の刃は弾かれる。 「レバンティン、カートリッジ・ロード」 『Jawhol(了解)!』 薬莢が排出され刀身が炎を纏い、現れた騎士はポニーテールを持つ傀儡兵に突進していく。 傀儡兵は、それを一度手の大型ナイフで受け止めたが刀身が溶けていくの見て後ろ跳びで距離を取った。 「縛れ、鋼の軛 !」 傀儡兵が跳んだ先に突然、白く発光する鎖が現れ傀儡兵の片腕を縛る。 すぐに引き千切ろうとするが、ザフィーラの鎖は異様に頑丈のようだ。 「どうした、ヴィータ。お前らしくない。」 「シグナム・・・。うっせーな、弾切れを待って反撃する予定だったんだよ。」 「そうか、それはすまなかったな。で、あれは一体なんだ?」 シグナムは鎖で腕を拘束された巨人を見る。 「知らねーよ、背後にいきなり現れて襲ってきた。」 「そうか。・・・アレの相手は私がしよう、お前はザフィーラと蒐集を急げ。」 ようやく鎖を大型ナイフで切り裂いた傀儡兵はザフィーラに発砲し、こちらを見る。 「分かったよ。」 「ああ、それと落し物だ。修復もしておいた。」 飛び去ろうとするヴィータにさっき落とした帽子が投げ渡し シグナムは傀儡兵に向かって突進した。 「来た。アルフ、迎撃いくよ。」 「あいよ、フェイト。」 飛んでくる紅い娘と褐色の男を迎え撃つ為バルディッシュに刃を発現させる。 相手は、あのなのはの装甲を破った相手だ。クロスレンジでの戦闘は避けたほうがいい。 時間稼ぎが第一目標であるのでフェイトはアークセイバーを放ち距離を保ちながら戦うことにした。 (アルフ、本来の目的は脱出までの時間稼ぎだからね?それと出来る限り相手の情報も集めとこう) (了解だよ、フェイト。) その言葉とともに空中戦が始まった。 傀儡兵の弾幕を切り抜けながらシグナムは敵に肉薄していた。 ヴィータの速さも決して悪くはないが、スピードで言えばヴォルケンリッターで一番はこの自分だ。 「はあ!」 シグナムは傀儡兵を縦に両断すべく、己の得物を振り降ろす。 傀儡兵はそれに反応し左手の大型ナイフで受け、そのままシグナムを押し飛ばす。 シグナムは後退し、正面から薙いでくる敵の刃に自らの剣を這わす。 火花が飛び散る、お互い立ち位置を変えず激しい攻防が続く。 突き、薙ぎなど様々な傀儡兵の攻撃にシグナムはレヴァンティンを這わせ、軌道を変える。 一息に一回の割合の応酬が二回、三回とスピードを上げていく。 (パワーでは、やはりあちらが上・・・だが小回りは自分のほうが上だ。ならば!) レヴァンティンからカートリッジをロードし、地面に炎を放ち土煙を巻き上げる。 その煙に紛れ背後からの一撃を加え、その攻撃は敵を真っ二つにし――――― しかし、そこでシグナムは目を疑う。 「なにっ!?」 レヴァンティンの刃が壁にぶつかった様に虚空で止り、逆にシグナムは弾き飛ばされた。 反撃が来る。シグナムは、そう思い身構える。 だが、追撃は来なかった。 傀儡兵はシグナムには興味を失ったかのように道路の先を見つめていた。 突如、何もないはずの空間から砲弾が飛び出してきた。 だが、またもや傀儡兵の前で攻撃は防がれ砲弾が弾け飛ぶ。 (なんだ?) そうシグナムが不思議に思っていると、インクが滲み出してきたように新たな巨人が姿を現した。 色は、目の前の傀儡兵と同じだ。スマートで華奢なシルエットをしているが力強い印象を見るものに与える。 新しく現れた傀儡兵は、こちらを見て一瞬呆然とした感じがしたが ポニーテールを持つ傀儡兵が攻撃の構えを執るのを見て、そちらに集中したようだ。 (どういうことだ、味方同士ではないのか?) シグナムは困惑するが、すぐに自分の目的を思い出す。 傀儡兵が自分達を邪魔しないのなら、蒐集を急ぐべきだ。 そう考え、ヴィータとザフィーラの援護に向かう。 上空の戦いを見ながら、なのはは自分の無力感に打ちひしがれていた。 今も、自分を倒した娘と戦っている親友のフェイトちゃん。転移魔法を編んでいるユーノ君、大柄な褐色肌の男を足止めしているアルフさん。 (私は何もできないの・・・?) レイジング・ハートは中破し、自分もボロボロ・・・でも何か、何かできることがあるはず 「なのは、敵の新手が来たみたいだ。二対三は流石のフェイト達でも不利だ。僕も戦闘に参加してくる。君は動かないで」 敵の来襲を察知したユーノ君が告げ、飛び立つ。 でも、ユーノ君は戦闘向きじゃない。私が何とかしなくちゃという気持ちに拍車がかかる。 そう思っていると、手に握っているレイジング・ハートがなのはに言う。 『マスター。スターライト・ブレイカーを撃ってください』 「それは・・・だめだよ。今、撃ったらレイジング・ハート壊れちゃうよ。」 『このままでは、ジリ貧です。状況を打破するには結界を破壊しなければいけません。』 確かにそうだ。相手には自らの魔力を爆発的に上げる何かがある。 下手をすれば、助けに来てくれた三人も自分の二の舞になってしまう。 だけど・・・・ 『私は大丈夫です。信じてください、マスター』 その一言が背中を押してくれた。そうだ、一緒に困難を乗り越えてきた相棒を信じなくてどうするだろうか? 今、この場を何とかできるチャンスがあるのは自分達だけだ。 「行くよ。レイジング・ハート!」 「Yes,master.」 (フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん、私がSLBで結界を破壊するから!) 他の三人はなのはの行為を心配するが、構わずチャージを開始する。 『10』 デバイスの先端にディバイン・バスター以上の魔力が集まりだす 『9』 自分の魔力だけに留まらず、周りの魔力も集める。相手もこちらの狙いに気付いたらしいが、みんなが決死の思いで足止めをしてくれている。 『5』 半年ぶりに撃つ分、制御は慎重に・・・だがダメージを受けてる分、前に撃ったときより負担が大きい。 『3・・・・3』 レイジング・ハートが壊れかかった声を出す。相棒のことを心配するが、レイジング・ハートは先を促す。 魔力は十分に収束し、後は発射するだけだ。なのははデバイスを振り上げる。 「スターライトッ!?」 最後の仕上げである魔法の名前を放とうとしたとき、それは思わぬ痛みによって止められた。 手だ。自分の胸から手が生えている。ホラー映画のワンシーンのような現実に眩暈を起こしそうになる。 その手には光る何かが握られていたが、もうそんな事を気にしている暇はない。 痛みに耐え完成した魔法を放つ為、レイジング・ハートはカウントを再開する。 『2・・1・・0』 「スターライト・ブレイカァァァァァ!」 自身最高の威力を誇る収束魔力砲を放ち、結界が破られるのを確認してなのはは気を失った。 前へ 目次へ 次へ
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通路を進んでいく四人、電力の供給が生きているが道は薄暗く見通しは悪い。 だが戦闘機人であるノーヴェは一応の暗視モードを持っており、この程度の暗闇には簡単に対応できる。 さらに各種センサーを内蔵しており、中・近距離の索敵能力ではその能力には頼りになる。 『スバル、どのくらい進んだ?』 『えーと、マッハキャリバー?』 <大体、2000メートルと言った所です> 『今の所隠し通路らしきものは無し。・・・しかしどんだけ潜るんだこの一本道は?』 何が出てくるのか分からないので肉声は厳禁。すべて会話は念話で行われている。 『ノーヴェ、引き続きセンサで全周を警戒して、ギンガ前方に反応は?』 『今の所は何も・・・ただ、カーブあってそこまで遠い距離まで分かりません・・・』 『了解。気を付けて前進して』 なのはは潜ったのは失敗だったかと考え始めていた。思ったより長い秘密通路、しかもただ長いだけの通路。 考えても見ればあの二機、地雷伍長が言うに「伝説のアリーナのトップ、ナインボール・ハスラーワン」が この通路の向こう側にあるであろう何らかの施設から出てきたとは分からないのだ。 しかもまったく同じ構成の機体が二機、なぜ居たのか?そして機体内には誰にも居なかった。 この先にさらに大きい危険があるかもしれない。もっと慎重に行動するべきだったかな? 指揮下にある三人を不必要に危険にさらしているのはあまり指揮官として褒められた判断とはいえない。 一旦態勢を整えて今回の調査はここまでにして引き返そうか? そんな考えが脳裏をよぎった時、銀河から通路の終わりを知らせる連絡が入った。 『なのはさん、通路の終点です。ただ・・・、閉まり掛けのゲートと奥には下降するシャフトが見えます』 ゲートは簡単に開いた。そして先にあった下降用のシャフトには整然と付いた二機分の足跡。 「ここから出てきたのは間違いないみたいです」 「・・・やっぱり、降りなきゃ駄目かな?」 「あの・・・、なのはさん?」 ノーヴェが珍しくなのはに話しかける。 「どうしたの、ノーヴェ?」 「さっきから受信する通信の雑音の中におかしなノイズが入ってるんですよ・・・」 「・・・?とりあえずデコーダーの内容をレイジングハートに転送して。レイジングハートちょっと解析してくれる?」 <了解、マスター> 最近、指揮官的な任務の増加に伴いなのははレイジングハートに上級指揮官用OSを新たに組み込んでいた。 高い情報処理系を搭載し、指揮下の人員を確実に掌握し使用者に高い精度の情報を与え判断を助け、 一心同体の二人をさらに結びつける。 <・・・解析完了> 「はやいね、さすが、レイジングハート。やっぱりキャリバーズのお姉さんだ」 スバルが褒める。 <ありがとうございます。簡単なことです。再生しますか?> 「うん、お願い」 “Sound Only”と表示されたモニターに四人全員の耳目が集中する。 『・・・秩序を破壊する者』 『・・・力を持ちすぎた者』 「こ・・・これって・・・。あの時と同じ?レイジングハート?」 <・・・まったく同じ声です。先ほどドーム内で相対した機体の発した声と> 『修正が必要だ・・・』 『それが私の使命・・・』 おそらく何かがこの施設の下で蠢いている。 『修正プログラム最終フェーズ・・・』 無機質的な男女の声。なのはにはレイジングハートの言うとおりだと頷くしかなかった。 「行かなきゃ駄目かな・・・?」 なのはは迷っていた。もし同じ機体がいたら間違いなく交戦する事になる。おそらくこの奥にまだあの機体が、 まだ少なくとも一機は居る。もしかしたらさらに複数いることだってありうる。 だが、自分達が引き返したら?間違いなく上の施設“渡鴉の巣”に上がる。そうなればアリーナのレイブンに 少なからず被害が出るだろう。一応は降りかかる火の粉を自分の手で払える傭兵・レイブンではあるが、 過去のアリーナのトップを相手に出来るのが今揃っているだろうか? 管理局員の判断基準として魔導士の起した事件を解決する、その基準で今回はその範疇に入るだろうか? 「行くしかないですよ。大丈夫です、陸戦Aランクが三人、空戦のSSランクがいれば解決できないこと なんてありません!!」 スバルはどこに行ってもスバルだ。なのはは思った。 楽観的、だが精神的な強さを併せ持ちどんな苦難にも立ち向かう。 しかもそれを人に伝染させ他者に力を与えることが出来る。それが出来る人間は少ない。 なのはが決断した。 「よし、行こう!!」 「「「はい!!」」」 シャフトの操作系統にレイジングハートで介入、コントロールを乗っ取る。 <操作系統を手中に収めました。下降させます> 「よろしくね、レイジングハート」 シャフトが下降する。 「しかしどこまで潜ればいいんだよ。中でドンパチやって崩れて生埋め、そんなの嫌だぞ」 「大分昔からある施設みたいだし、強度的には大丈夫なんでしょう」 ノーヴェが文句をつけ、それをギンガがたしなめる。 地下奥深くへとシャフトは降りていく。 「終点みたいだね」 シャフトが停止した。前方には上と同じようなゲート、もしかしたら最初に戻ったんじゃないかという 錯覚をしてしまうほど同じような構造。 その先にあったのは再度伸びる長い通路。 「隊形を変えよう。各人間の距離を詰めてスタック隊形、私が後方に回るよ。ほぼ間違いなく敵性の魔導士が いることに注意して」 「「「了解」」」 返事と同時に通路での移動時の隊形に変わる。狭い屋内での基本的な密集隊形、スタックを組む。 だが装備の殆ど同一のナカジマ三姉妹と航空魔導士のなのはがいては前進速度を合わせ辛い。 一番怖いのは後方から強襲される事だがそれは自身ので奇襲は避けれる。 もし、前方から出てきたら?少なくとも自分の砲撃は前衛の誰かを巻き込む。 施設内での突入の先頭は指揮官が勤めるものではない。なのははナカジマ三姉妹の接近戦闘のレベルには及ばない。 交戦距離の近い状況では火力よりも一発の打撃力が大きいほうが有効だろう。 「スバル、先頭を代わって。私が二番、ノーヴェは三番目で行きましょう」 「了解、ギン姉」 「私が二番の方が・・・。ギンガ姉が後方からスバル姉と私を指揮したほうが良くないか?」 「ノーヴェはセンサーで前後に注意を向けておいて。・・・それにね」 ギンガが左手をノーヴェの頭に置く。 「・・・ギンガ姉?」 「まだ調整が終わってないでしょ?ちょっとでも反応が遅れたらあなただけでなく皆が危険だからよ」 「うん・・・」 デバイスが装着され、硬くなった左手で頭を撫でてやる。昔、自分を三人がかりでふっ飛ばしてくれた相手である はずだがそれが無かったかのように優しく接している。 「あ~、ノーヴェばっかしず~る~い~。ギン姉、わたしもわたしも!!」 スバルが警戒をほっぽり出してギンガに擦り付く。 「はいはい、でもスバルの分は後。今は任務に集中しなさい」 ギンガがスバルをたしなめるとノーヴェから手を離し、通路の向こう側を向く。 「さあ、行きましょうか」 通路を進んでいく。途中にあるゲートは開閉システムにアクセスするだけで簡単に開いた。 殆ど何も無い、証明だけが照らす無機質な通路。 「浮遊機雷見っけ。今までと同じ、透明化処置されてる」 「ノーヴェ、生きてる?」 「電子関係の機能は死んでる。けれど中の装薬と機械式信管は生きてるから垂れてるワイヤーに注意して。 多分触れたら簡単に炸裂するよ」 「了解。気を付けて行こう」 浮遊機雷が仕掛けられているがこれを避けて前進する。一人でも触れれば全員に少なからずダメージを与える。 爆破処理をすれば寝た子を覚ますかもしれない。無力化していけば時間がかかる。 「またゲート?よほど重要な施設なのかな?ノーヴェ、ゲートの先はどう?」 「無理だ。ゲートが厚い上に妨害する何らかの処理がされてる」 「スバル、停止。突入用意、なのはさん、いきます」 「了解・・・、さっきから同じ様な部屋ばかり・・・、気をつけてね」 そういうとレイジングハートを構える。 「開けるよ、・・・GO!!」 <ゲート、オープン> レイジングハートが開く。それと同時にスバルが一直線に突っ込み、ギンガとノーヴェが左右に突入する。 「え!?」 「嘘!?」 「マジかよ・・・」 最初に入ったスバルが目を疑い、続いて突入したギンガとノーヴェも信じられなかった。 そこにはアリーナで交戦し、撃破した機体と似たカラーリングの機体が数機、未武装の待機状態で格納されていた。 足元には待機状態から下に落ちたのかこちらにもバラバラになった機体が散乱していた。 「本当はこんだけ沢山いたってことかよ・・・」 「まさに不死身って事ね・・・、一体が倒されてもストックしてある機体からまた出せばいい・・・」 「でも・・・、気付かれずそんなことができるものかな?」 「残骸が散乱しているのを見ると大半が機能しなかったみたいだね。・・・これだけの施設を隠して 運営出来てたなんて・・・」 その場にいた四人は背筋が凍った。もしこれらの機体が完全な戦闘態勢をとって待ち受けていたら? 「・・進もう」 なのはが決断を下す。 まだ続いている通路を進む。この通路は一体どれだけ進めばいいのか、四人にはまったく分からなかった。 スバルがゲートの前に立ち振り返る。なのははそれに合わせてレイジングハートを構え、ゲートを開く。 全員が無言で、念話も無い。 「また!?」 スバルが声を上げる。今度は先ほどの部屋と違い残骸が散乱する事も無い、照明の行き届いたきれいな部屋。 部屋の左右の壁には未武装の機体が六機、格納されていた。 「・・・」 誰も声を発さなかった。 旧暦時代の施設から隠し通路で繋がる大深度地下施設。誰も知らぬ地下の闇の深い場所で眠る何か。 それが目を覚まそうとしている。いや、もう目を覚ましている。 もしかしたら自分達がここに来たのがそれの引き金を引いたのか。あらぬ想像が脳裏に浮かぶ。 『私は守るために生み出された・・・』 「・・・また!!」 今度は雑音交じりの通信ではなく、殆ど雑音の無いクリアーな通信だった。 『・・・私はその使命を守り、破壊された世界達をを再生する』 『全システムチェック終了・・・』 『力を持ちすぎた者はすべて排除する』 この先にまだいるであろう何かの呼びかけ。かつて昔の船乗りに恐れられたというセイレーンの歌声のように。 「ギンガ、スバル、ノーヴェ、どうする?一旦引き返して態勢を整えてからもう一度・・・」 「「「いきましょう!!」」」 次に入ったのは今度は明らかに戦闘で破壊された残骸が散乱している部屋だった。 残骸は焼け焦げ、外観も内部も酷く損傷していた。 柱や壁には激しい戦闘があったことを示す弾痕と爆発痕。 「わたし達以外の誰かがここに来たって事?」 「同士討ち・・・、まさかそんなことは無いでしょうから、おそらくは・・・」 「・・・でも、一体誰が?」 「・・・ん?カートリッジか?」 ノーヴェが散乱する残骸の中から筒状の物を拾い上げる。 「デバイスの汎用の魔力カートリッジじゃないね、大口径機関砲に使われる専用カートリッジの空薬莢だよ」 それを見たなのはがノーヴェに解説する。 「へぇー、ということは間違いなくここに誰か来てこいつらを破壊したって事ですね」 「どうして?」 「こいつらは大型機関砲なんて装備してないです」 「でも来たといっても、大分前ですよ。ここに来る前にあった残骸にひどく錆が浮いてるのがありました」 なのはとノーヴェの会話にギンガが入る。 「開きましたよー」 スバルが通路の先にあるゲートを勝手に開いていた。 恐る恐るスバルがその先を覗き込む。 「あれ?行き止まり?」 「よく見なさい。あそこに穴が開いてるでしょ?」 「あ、ほんとだ」 四人が縦坑内を覗く。内側は十分な明るさがあった。だがその先に何があるのか、 その先が深い闇で全く分からなかった。 「・・・降りますか?」 「わたしから降りるよ。何かあったらすぐに降りてきて」 その言葉にナカジマ三姉妹は顔を見合わせ、なのはを見る。 「なのはさんが降りなくても・・・私が行きますよ?」 ギンガの言葉になのはが頭を振る 「ううん、降りるのは私が行くよ。三人は何かあるまでここで待機、分かった?」 なのはが縦坑の入り口に足をかける。 「じゃあ、行って来るね」 「気をつけてください・・・」 スバルがそう言うとなのはの姿は縦坑に消えていった なのはが縦坑を降りていったその先、広い薄明かりを従えた闇に包まれた空間にいたのは背中に細身の機体に 不釣合いなぐらい巨大な高機動ユニットを背負った機体。機体のカラーリングは一部の地金むき出しの部分を除き、 ナインボールという機体と変らない。だがパーツの形状は大分変り、武装も一見だが変わっている。 そして肩には⑨のマーキング。 「あなたは・・・一体誰なの?」 思わずなのはが聞く。相手が答えるはずのない質問。 「・・・ターゲット確認、排除開始」 相手が返事と思わしき言葉を返す。とてもではないが話し合う余地があるとは思えない、内容。 「いいよ、そっちがその気なら・・・何度でもやって、徹底的に打ちのめしてあげるから!!」 なのはが啖呵を切る。 「レイジングハート、対高機動目標モード、高速目標に最適化。ブラスト・ストライク!!」 いつものように槍のように形態を変化させたレイジングハートを構えるなのは。 その先にいるのは不気味に静かに立つ、魔導甲冑を着た何か・・・。 ナインボールが腰を落とし前屈みの姿勢をとった。 『来ます!!』 スバルが警告を発する。相手微妙な体重の移動を見抜き、動きを読む、突撃ストライカーの必須技能。 だが、相手は接近戦を挑む訳ではなかった。 「・・・誘導弾!!ギンガ、スバル、シールド展開!!ノーヴェは私の後ろに!!」 誘導弾を大量に発射、先手を取られた。 「アクセルシューター、シュート!!」 誘導弾を迎撃する為、アクセルシューターを射出。だが迎撃が間に合わなかった誘導弾が近接信管で起爆、 さらにアクセルシューターに迎撃された誘導弾も破片と魔力片をバラ撒く。 「・・・っく!!」 「ノーヴェ、そっちに行ったわ!!後方の上!!」 「早えよ!!」 なのは達の注意が誘導弾に向いた一瞬の隙を突いて高速移動。 背後を取った相手が後衛だったノーヴェにブレードで斬りかかる。 警告を聞いたノーヴェはジェットエッジで急旋回、後ろに回った相手と正対。斬りつけられるブレードを回避する。 「ん?・・・わ!!」 ブレードから光の刃が浮き出たと思えた瞬間、それがなのはに向けてまっすぐ向かってきた。 <プロテクション> レイジングハートがオートでシールドを展開、光の刃はシールドと接触した時、爆発霧散した。 「みんな、ブレードから出る光刃に注意して!!」 「ノーヴェは回避に専念!!スバル、上へ!!」 「了解、ギン姉!!」 「こいつの動き、さっきのヤツと違う!!」 スバルがノーヴェの後方からウイングロードで目標に肉薄、ギンガは後方に回り後ろを取る。 ノーヴェが避けたブレードから発生した光刃を左二の腕の装甲板で受ける。 「熱!!ギンガ姉、スバル姉、気を付けて!!受けすぎると熱が!!排熱が・・・」 「ノーヴェ、回避!!」 ノーヴェの警告をかき消してスバルが後方から指示。それを聞いてノーヴェが腰を落とす。 「リボルバーシュートォォーー!!」 危険を感じたノーヴェは正面から離脱。一瞬前までノーヴェが居た場所を光弾に暴風が通過、 「・・・嘘?」 並みの相手なら吹き飛ばされる一撃を相手が両手をクロスさせ耐えて見せたのだ。 衝撃を受け止め、一瞬だがナインボールの動きが固まる。その瞬間を後方に回っていたギンガが逃さない。 背中を見せていた相手に左手のリボルバーナックルを叩き突けるためにさらに近接。 「・・・くっ、トライシールド!!」 だが相手の硬直は本当に一瞬、しかもまるで見ていたかのように右に半身を取ると右手のチェーンガンを発砲。 実態を有した魔力弾の連発に堪らずギンガはシールドを張りつつブリッツキャリバーで右に直角カーブ、 だがそれを追うように正確に狙いを付けて相手は追撃する。 「ブラストショット!!」 なのはのレイジングハートの先端に光が収束。収束した光が数条のピンク色の光線を放つ。 相手は半身から左構えに戻ると自身の正面に飛んで来た一弾にシールドを形成、霧散させる。 だが回避されることを前提とした射撃だ。今は相手の動きのデータを取る事が重要。 左側に滑りながら左手に持ったパルスライフルを連射。なのはは射撃で相手を追うが巧みな機動を取り捕らえられない。 「早い!!でもすごい機動・・・」 なのはが感嘆を漏らす。ここまで綺麗に回避できるフェイト位なモノだ。だげすぐに気を取り直す。 「レイジングハート、射撃支援モードでブラスタービットを展開。火力支援を」 <了解、展開します> なのはの後方にブラスタービットが展開。数は四基。 「みんな、追撃は待って。正面から追撃するのは危険なの。態勢を立て直そう」 「「「了解!!」」」 一旦距離をとった相手が強烈な逆噴射とブレーキをかけて停止。だがそれも一瞬、今度は上に飛び誘導弾を 撒き散らしながら頭上を飛び回り、右手のチェーンガンと左手のパルスライフルで地上を掃射する。 誘導弾が着発信管や時限信管で炸裂し、実体弾が地面をえぐる。 「こいつ!!・・・って、わぁ!!」 スバルが付近に着弾した誘導弾の爆風に吹き飛ばされ、ひし形の陣形が崩れる。何もかも計算尽くだと いわんばかりにスバルとなのはの間に開いた連携の穴からなのはに近接する。 「スバル姉!!野郎!!」 「ノーヴェ、熱くならない!!冷静に戦いなさい!!」 「でも!!」 簡単に冷静さを失うノーヴェをギンガが止める。 「スバルなら大丈夫よ。なのはさん!!」 「私も大丈夫、でも接近戦だから支援して。レイジングハート魔力刃を展開!!」 なのはが頭上に上がる。アクセルフィンを高機動モード、レイジングハートは長槍のごとく魔力刃を展開。 運動は確かに苦手、接近戦も不得手。だが色々な人に教えられそれなりにモノにしたつもりだ。 そもそも自分は御神流の末裔の一人!! 「はぁぁ!!」 自身の前面にシールドを半面上に形成し肉薄する。 今回は確実に一瞬の隙が出来た。それを逃さないでさらに肉薄、レイジングハートの鏃の先を向け加速突入。 誘導弾が炸裂するがシールドで止め、パルス弾に実体弾もシールドで受け止める。 「そこぉぉ!!」 間合いに入る。自身の利き腕である左手を軸に槍-杖-で右腰より逆袈裟懸けに刃が軌跡を描く。 加速した為、相手の取ったタイミングより数瞬早く動く。相手は空中で回避機動、 それでも刃は相手の左胸部を浅く薙いだだけ。 だがこちらの間合いはあちらの間合いでもある。左・二の腕のブレードが光を収束、光刃が煌めき高速で振りぬかれる。 なのはが最小限の機動で回避。 「あ!!」 気付くのが遅れ反応も遅れた。相手は右・二の腕にもブレードを格納していた。そのブレードが同じように光を収束、 斬りつけられる。 回避しようと後方に動く。今度はこちらの反応が遅れる番、こちらは左肩の外側を斬り付けられる。 この程度ならかすり傷、いや傷の内にも入らない。だが押し続けられれば自分は不利になる。 自立行動に設定していたブラスタービットが発砲。レイジングハートの組上げた制御管制プログラムは優秀、 各々が射線を変えた偏差射撃をくわえる。それをナイン・ボールは自身命中する射線だけを防御、 不気味に飛び続ける。 「なのはさん、下がって!!」 スバルがウイングロードで近づいてくる。援護するようにノーヴェはガンナックルから光弾を打ち出す。 ノーヴェの光弾が左手のパルスライフルに集弾する。魔力収束パックの部分に被弾したのかライフルが 強烈な光を発した。それを惜しむ素振など見せず、逆にノーヴェに投げつける。 「うわっっ!!」 「ノーヴェ、いいよ!!」 「おおりゃぁぁーーー!!!!」 スバルの右手のリボルバーナックルが光を放ち打ち込まれる。相手は避ける気も逃げる気もない。 それを正面から両手をクロスさせ受け止める。 「よっぽど自信があるのね・・・」 ギンガがあきれる。ギンガはなのはの後方をウイングロードで走り、頭上を飛び越えてスバルを相手に対する 目隠しにして接近していた。 「クリーンヒッットォォーー!!」 正面から襲い掛かる衝撃をブースターを出力最大に噴かし受け止めたのか背後に噴射煙が巻き上がる。 「耐えた?」 まだ相手は浮いていた。だがそこにスバルを飛び越えたギンガの駄目押しが入る。 「シールドブレイク!!」 相手のシールドを突き破り、左手のリボルバーナックルを本体に叩きつけて相手を吹き飛ばす。 「この野郎・・・、ハンマーダウン!!」 それでも立ったまま受け止めて地面を滑るナインボールに今度はノーヴェの蹴りが炸裂。 だがそれでも相手は倒れなかった。背中の高機動パックの噴射を絶妙に調整し、機体自身のブースターを噴かす。 「レイジングハート、全ブラスタービットを収束射撃モードへ」 <チャージング完了> なのはは丸い魔法陣の中心に立つ。左右両翼に従えるのは四基のブラスタービット。そのすべてが魔力をチャージング。 「ディバインバスターーー!!!」 追い討ちをなのはが仕掛ける。 「まだ立ってる・・・?」 「まるでロストロギア級の魔導甲冑じゃない・・・」 砲撃の着弾後、立ち込める煙が退いた中から姿を現したのは赤と黒の機体、ナインボールだった。 一応のダメージを負っているようだが、もし、戦意と言うものがあるというのなら決して衰えていない。 「・・・なのはさん、わたしのISの使用を許可してください」 スバルがなのはに声をかける。 スバルのIS・振動破砕は部隊長の許可なく使用できないようロックがかけられていた。 下手に使用して間違いが起こらないように。 「・・・いいよ、部隊長権限でロックを解除。レイジングハート、確認と記録をお願い」 <解除命令を確認、デコーダに記録します> 「マッハキャリバー、お前も記録しておいてね」 <無論です、相棒> なのはが一応は決められた手続きを踏んで解除する。なのは自身はスバルが間違った使用方法をしないと 分かっているが一応は規則だ。もし無断使用させればただでさえ微妙なスバルの立場が危うくなる。 スバルが両目を閉じる。一寸閉じられた瞳が開かれるとスバルの青い目は金色の目に変わっていた。 「・・・ありがとうございます」 「まだ終わってないよ、お礼は終わった後!!」 なのはが言い終わると同時にまたナイン・ボールが飛んだ。 「また!!」 だが先ほどとはまったく違う動きだった。直線的な動きを繰り返す。動くたびに右手のチェーンガンが、 背中と両肩のランチャーから誘導弾が、ばら撒かれる。先ほどとは比べ物にならないほど激しい爆撃。 射撃に専念するかと思えば、タイミングを確実に計り、いきなり急降下するとブレードで斬りつける。 高速で空を動く相手は地上に居る人間にとって苦手なんて物ではない、天敵だ。 「ツーマン・ターセル!!ギンガはスバルと、ノーヴェは私の後ろ、直近に!!」 すばやい移動と放たれる実体弾と誘導弾に翻弄されながらなのはが指示を出し、全員が配置につく。 「ノーヴェ、私の空戦機動について来れる?」 「勿論!!」 「オーケー、・・・行くよ!!」 なのはが飛ぶ、その後ろをエアライナーを展張、ノーヴェが追う。 『ギンガ、スバル、ノーヴェ、四人で連撃しよう。一人で連撃しようと思わないで、さっきみたいに連携を取って、 一人一撃づつ。決めよう!!スバルが言った通り、この四人が揃えばどんな事件だって解決できる!!』 『『『了解!!』』』 アクセルシューター、スフィア展開、近接設定!!」 正面から向かうなのはが周囲にアクセルシューターのスフィアを展開その数、二十。 「シュート!!」 一斉に襲い掛かる、魔力弾の群れ。管制はレイジングハートが半分、残り半分は自立制御。 同時にブラスタービットも射撃を開始、こちらは自立制御で砲撃を打ち込む。 それらを平然と正面から受け止めるナイン・ボール。 「いくよ!!」 なのはが敢然と槍の如く-杖-レイジングハートを振り上げてナインボールに襲い掛かる。 「あぁ!!」 なのはの一撃を受け止め、さらにシールドを任意でバースト、なのはの動きを止め、追い討ちでなのはのシールドに 左の拳を打ち込む。堪らず吹き飛ぶなのは。 「おい!!」 「あなたの相手はこっち!!」 ギンガとノーヴェが両翼から一撃づつを加える。 二人同時の一撃、ノーヴェは右手で、ギンガは左手で。若干ノーヴェの一撃が早く打ち込まれる。 相手はそれに合わせて新しいシールドを展開。そこにギンガの拳が接触。 「ロードカートリッジ!!」 ギンガの目が金色に変わる。戦闘機人としてのリミッターを解除、そして リボルバーナックルのカートリッジをロード、左拳の指先を伸ばし・・・。 「リボルバーギムレット!!」 左手が高速回転し伸びる。シールドに接触したドリルはそのままシールド表面で空しく回転、。 「まだまだぁぁーー!!」 さらにカートリッジをロード。だがナインボールは右手のチェーンガンを向ける。 「わたしも居るんだよ!!」 ノーヴェが金色に輝く右手のガンナックルを最高出力で叩きつける。 衝突の瞬間シールドが過負荷に耐え切れず消滅。 だが右手のチェーンガンが火を噴くのとほとんど同じだった。 「ギンガ姉!!」 ノーヴェがギンガの横から飛び込む。重なる二人を薙ぎ払うように発砲炎が光る。 「ギン姉!!ノーヴェ!!」 「スバル、行きなさい!!」 ギンガの声が聞こえた。 「振動破砕でやる、行くよ相棒!!」 <了解、ロードカートリッジ> スバルの勢いに思わず後ずさる相手を見据えスバルがIS・振動破砕を発動。 リボルバーナックルにベルカでもミッドチルダでもない、丸く青い二つの結界が方陣が生まれる。 「・・・ぶっ潰す!!」 機械のみならず生身の肉体に対しても使用すれば確実に機械や生体組織を破壊するスバルの技。 「リヴォルバーナッコォォォーーー!!!」 正面から相手の胸の地金剥き出しの装甲を狙う。 両手をクロスさせナイン・ボールが機体を守る。だがスバルはそれを気に止めもしないで右の拳を打ち込む。 両腕に直撃。そのままの体勢で押される機体。 「もう・・・、一ッッ発!!」 そう言いながらやわらかい体を生かし思いっきり右足を振り上げ両腕を弾く。 一瞬だがスバルに怯えの様な感情が感じられた。だが・・・この相手に情けをかけるほどスバルには隙はない。 がら空きになった胸部にもう一度、右の拳を打ちつける。 「おおりゃぁぁーーー!!!!」 前面の装甲板をつきぬけ内部に拳が入り込んだ瞬間、振動破砕を発動。 ナイン・ボールが吹き飛び、地面に叩き付けられる。おそらく、どんなに強力な装甲板をつけてもスバルの 振動破砕から逃れることはできない。 スバルがウイングロードから打ちつけた相手を見下ろす。 「なのはさん!!」 後方から桜色の光、光や音すら通らないこの大深度に太陽のごとく桜色の光が広がる。 そこには桜色の魔法陣の中央に立つなのはが居た。見据えるのはスバルの渾身の一撃を受けたナインボール。 「ブラスタービット、バインド形成、拘束!!」 ピンク色の光が相手に絡みつき、動きを拘束する。 「アクセルチャージャー、安全制限解除!!」 なのはが構えた槍-杖-レイジングハートがカートリッジをロード。 「エクセリオンバスターACS、ドライブ!!」 スバルの振動破砕を受け、機体内に想定以上のダメージを受け動きが鈍くなる。そこになのはのバインドがかかる。 バインドを必死に引き千切ろうとするがそう簡単に抜け出せるほど甘いバインドをなのははかけない。 代わりにシールドの出力を上げる。 「ブレイク・・・」 レイジングハートから発生した六枚の羽がさらに大きく雄雄しく舞う。 「シュート!!」 桜色の光が数条、再びナインボールを包み込む。同色の炸裂した光は方円上に広がり闇を照らした。 戻る 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 第七話「その日、機動六課。そして崩れ落ちる城(後編)」 「くぅっ・・・!!」 吹き飛ばされるノーヴェ。対峙するは武帝、豊臣秀吉。 すかさず立ち上がり拳を突き出すが秀吉の大きな手で防がれる。 「ふぅむ・・・中々の攻撃だ。しかし!」 反対側の腕で腹を殴る。また大きく吹き飛ばされるノーヴェ。 「ぐ・・・がはっ・・」 壁に叩きつけられ倒れこむ。そしてその横ではウェンディと戦っている忍、猿飛佐助の姿があった。 「よっ!とっ!はっ!」 「この・・・!ちょこまかと・・・!」 華麗な身のこなしでウェンディが放つ砲撃を回避していく佐助。 しかしその回避した先に魔力が込められた球が待ち構えていた。 「なぁにぃ~!?」 「とった!」 爆発する魔力。ウェンディは勝利を確信してガッツポーズをとった。 しかし、ウェンディの頭上から 「何をとったって?」 声がして佐助の手裏剣を肩にうける。すばやく距離を取るウェンディだが表情を見る限り何が起こったかわからないようだ。 忍術、空蝉の術 攻撃が当たる直前に姿を消して素早く相手の頭上に現れ、攻撃するという佐助が得意とする術の一つ。 次に手裏剣を腰に装着、低く構えて印を結ぶと影が立体化して回転しながらこちらへ向かってくる。 忍術、影当ての術。 自分の影を立体化させて相手へと突進させる高度な忍術の一つだ。 ウェンディはその一撃を受けてノーヴェの隣に吹き飛ぶ。 「これは・・・あたし達のほうが圧倒的に不利っすね・・・ぐ・・・」 「そうだな・・・ちっ・・退くしかねぇか・・。」 そういうとウェンディが砲撃。秀吉が防ぐとあたりにすさまじい爆風が起こる。 爆風が止んだときには少女二人の姿はなかった。 「逃げられたか・・・。しかし佐助よ。どうしてあの者達の味方をした?」 「いやだってあんな触手に絡めとられてた美少女を人質だーって言われてたら助けるしかないでしょー!」 そう言って秀吉の背中をバシバシ叩く佐助。佐助の冗談を聞き流す秀吉。 「さて、この世界はどうやら戦国の世ではないようだな。」 「しかも多分臭いからして地下だぜこれ?とっとと上行こうぜ。」 「うむ。」 二人の武将は地上に出るべく走り出した。 そして、その頃、スターズ部隊は・・ 「あ・・・あ・・・あ・・・」 蒼髪の少女、スバルは絶望に飲まれた。 異様な邪気を出して佇む銀色の鎧に身を包む男。 その手には血まみれになり、意識を失って頭を掴まれた姉・ギンガの姿があった。 「ふん・・・また虫が来たか・・・。」 ギンガを放り投げる。その先には隻眼の少女、チンク。 「の・・・信長・・・これは少しやりすぎではないのか・・・?」 「黙れ。さっさとそいつを連れて戻るがよい。カラクリ人形めが。」 「くっ・・・」 ギンガを大きめのアタッシュケースに入れ、奥へと撤退するチンク。 だが、その顔には怒りがあらわになっていた。それは自分をカラクリと呼ばれたことではなく、「信長」という男に対してだった。 「あいつは・・・本当に人なのか・・・!?味方とはいえ・・・あいつのやり方には腹が立つ・・・!」 「うぁ・・かえせぇぇぇぇぇぇ!!」 目を金色に輝かせ、蒼い魔力を発しながら信長へと向かうスバル。 だが剣に防がれ、押され始める。 「く・・・ぅ・・・う・・・」 その目には涙を浮かべていた。 「ふん・・・虫けらめが。この第六天魔王に刃向かうか・・・。」 軽くあしらい、右肩へと剣を振り下ろす。 切り裂かれた箇所からは大量に血が出て、スバルは激痛で倒れこむ。 「うあぁぁあぁぁぁあ・・・・!!」 さらに信長は左手に持っていたショットガンでスバルの左足、そしてマッハキャリバーを打ち抜く。 「あぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁっ!!!」 顔は激痛で歪み、目からは涙がとめどなく溢れる。 信長はスバルの腹を踏み、頭に銃口を向ける。 「・・・この織田信長に刃向かった罪、死して償え。」 「い・・・いや・・・・いやぁ・・・!」 刹那、銃口が響くことはなかった。 突然飛んできた手裏剣でショットガンが弾き飛ばされたからだ。 手裏剣は一つ、また一つと増えていく。信長はそれを回避。 そして影がひとつ、走りぬけながら手裏剣を投げる。信長はそれを剣で弾き落としながらバックステップ。 影はスバルの前に止まるとその姿を現した。 白と黒を強調させた着物、背中に背負う忍者刀二本。それは病室にいたはずの伝説の忍、風魔小太郎。 「本当の・・・風魔・・・さん・・?」 風魔がふと振り返ると、口の端をほんのわずかだが、つり上げた。右肩にはまだ包帯が。 自分の怪我そっちのけでスバルを助けに来た。借りを返しに。 そして魔王、織田信長の方へと向くと忍者刀を構えた。しかし相手はあの魔王。自分は負傷。圧倒的不利だ。 信長がマントをはためかせて邪気を塊にして放つ。 当たる直前、忍と少女の姿は消えていた。 「うつけが・・・。」 「・・・・」 「・・・・」 ここは先ほどスバルが通ってきた通路。そこにスバルと、風魔はいた。 「守れなかった・・・ギン姉が・・・つれてかれちゃったよ・・・」 目から零れる雫。それはスバルが流した涙。拳を握り締める。 風魔はただ見ているだけしかできない。 「あたし・・守れなかったよ・・風魔さん・・・風魔さん・・・!!」 今にも正気を失いそうなスバルを風魔は抱きかかえ、歩き出す。スバルは泣くのをやめて、自分を抱きかかえた者の顔を見る。 「え・・?」 「・・・・・」 風魔はただ歩く。自分がもし、喋れたとして、このことを喋ったら腕の中の儚い少女は崩れ去るだろう。 だから言葉があっても言おうとは思わない。六課本部が襲われていること、自分は忠勝に任せ、ここまで来たこと。そして小さな妖精を抱え、泣き叫ぶ真紅の少女を見たことを。 決して、言えなかった。二人は後になのは、ティアナと合流し、ともに外に出ることになる。 一方、ロングアーチの連絡を受け、六課に戻るべく急いでいたエリオ、キャロ、フリード、フェイトのライトニング部隊。 その途中で二体の戦闘機人の襲撃を受け、エリオ達を先に行かせて一人で応戦しているフェイト。 「さすがに・・強い・・・」 フェイトはザンバーフォームにしたバルディッシュを構えて呟く。目の前には戦闘機人、トーレとセッテ。 そこに、新たなる乱入者が。 「イェア!!」 突然飛んできたのは巨大な錨の先端。 トーレはそれをインパルスブレードで弾く。戻っていく先端。 その先には海に浮かぶガジェットドローンの残骸の上に立つ鬼ヶ島の鬼の姿があった。 「おうおうおう、人ん家を荒らしておいて挨拶もなしかぃ?」 鬼、元親は唾を吐き捨てると錨をトーレとセッテに向ける。 「よーし、オメェら二人、どっちが強い?強いほうは俺と戦いやがれ!!」 「上等だ!!」 元親の挑戦を受けてトーレは向かう。接近しても無防備な元親の腹に拳の一撃を喰らわせる。 が、吹き飛びもせずその場で立っていた。 「ゴホッ・・・中々いいパンチじゃねぇか。気に入ったぜ。」 元親もトーレにボディーブローを放つ。 「グハッ・・・お前も・・・やるじゃないか!」 互いに離れ距離を取る。そしてまた錨とインパルスブレードのぶつかり合い。その上空ではセッテとフェイトが戦闘を繰り広げていた。 「はぁぁぁぁぁぁ!!」 「くっ!!」 バルディッシュを振るいセッテに切りかかる。セッテも負けじとブーメランブレードで切りかかる。 ぶつかり合った二つの刃からは火花が散る。 しかし、トーレとセッテは後ろへと飛び退き、並んだ。 「今回は時間なのでこれで引き上げます・・が。次に会ったときは・・・貴方達は勝てませんよ?」 そういうと二人は消えた。元親は別に追う動作はせず、錨の上に乗る。 「チッ、そんなに始めてから時間経ってねぇのによ・・・。気に食わねぇ・・・戻るぞ。」 「あ、待って!貴方は!?」 錨の上に乗ってサーフィンの如く海上を走る元親と空を飛ぶフェイトは、六課本部へと戻った。 一方、六課本部。 「・・・すごいね。一人でここまでやるなんて。」 戦闘機人、オットーとディードが見下げて眺めるは装甲が砕け、煤だらけで間接のあちこちから電流が流れる本多忠勝の姿があった。 忠勝の周りには粉砕された幾千のガジェットドローン。 忠勝は機械音を唸らせて立ち上がり、槍を構える。 「正直・・・驚いたけど・・・ここまでだね。IS発動。レイストーム。」 オットーの周りから緑色の砲撃が放たれる。それは数本から一本になり、大きさを増した。 一方の忠勝は背中の紋章から盾を二枚出して腕に装着、両腕を交差させる。 忠勝、防御形態。 次第に溶けていく盾。その直後に爆発。 「さて・・あとは・・・何?」 爆風の中から出てきたのは上半身の左半分を消滅させながらもなお機動し続けている黒の巨人。 オットーもさすがに目を見開く。 次にディードが飛び出す。 「IS発動、ツインブレイズ。」 その一撃は、右手だけで掴んだ槍で防御された。次第に押していく忠勝。最後には完全に押し返してディードを吹き飛ばした。 吹き飛ぶディードをすかさず受け止めるオットー。 またレイストームを発動させる。今度はロケットを点火して上空へ逃げる忠勝。しかし後ろから接近してきたディードのツインブレイズで紋章を斬られ、落下。 これで本多忠勝の大半の形態は使えなくなる。ということだ。 「さて、注意を向けてくれてありがとう。」 二人は横を見る。忠勝もその方向を向くと倒れているシャマルとザフィーラ。そして紫の少女が連れた謎の黒い人影に抱えられているヴィヴィオ。 忠勝は手を伸ばすが足が動かない。 そのまま消え去ってしまったオットー、ディード、そして謎の黒い人影と紫の髪の少女。 残されたのは大量のガジェットドローン。 それでも忠勝は諦めなかった。勢いよくジャンプして槍を前方に構える。例え紋章を失ってもなれる形態が一つある。 槍に内蔵されたロケットを点火。そのままガジェットドローンの群れへと突進する。 忠勝、突進形態。 戦国最強と呼ばれた巨人の姿は巨大な爆風の中へと、消えた。 キャロとエリオが着いた時には、遅かった。 燃え盛る六課本部。 そして、本多忠勝が背中に装着していた紋章。その紋章は、ところどころへこみ、二つの切り裂かれた跡があった。 「・・・ただ・・かつ・・さ・・ん・・忠勝・・・さん・・・。」 目に涙を浮かべるキャロ。そしてまた接近してくるガジェットドローン。 キャロは何かを呟きながら立ち上がる。そして天空に向かって、叫んだ。 「ヴォルテーーーーーーーーールッ!!」 そして、夜空の下、ガジェットドローンを一掃した巨大な竜の姿があった。 その咆哮は、どこか悲しそうに聞こえた。 戻る 目次へ 次へ
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《ミッドチルダに住む人々よ!今この地は未曾有の危機に直面しておる!!》 《先日起きた地下水路崩壊も然り!そして諸君らの記憶にも新しいアグスタ襲撃も然りじゃ!!》 《これらはガジェット及び不死者と、それらを造った者達の手によって引き起こされた事なのである!!》 《そしてアグスタ襲撃事件の際、我々管理局は最大の策を投じたにも関わらず敗れた!!》 《即ち!このままでは我々の滅亡は必死であろう!ならば我々はこの滅亡の危機を運命として受け入れなくてはならぬのか?》 《否!断じて否!!我々管理局はこの未曾有の危機に対し、新たな策を投じた!それが彼らエインフェリアである!!》 《彼らエインフェリアは人型のデバイスである!その姿形に人型兵器と思う者達も多いであろう……》 《しかし!!彼等はこのミッドチルダの魔導技術の粋を集め造られた存在!決して質量兵器などではない!!!》 《その証拠に見よ!彼らの勇姿を!!この映像は先日起きた地下水路崩壊の際に撮られた物である!》 《彼等は魔法を用いて!たった二体の手により、この複数存在するガジェット及び不死者の群れの悉くを殲滅させたのである!!》 《即ち彼等こそが、未曽有の危機に対する対抗手段なのじゃ!!》 《そして我々管理局はこのエインフェリアを量産する用意がある!その名も…アインヘリアル計画である!!》 《この計画が実行に移れば、もうこのような幼い子供にデバイスを持たせる必要は無くなるのだ!!》 《聞け諸君よ!彼等エインフェリアは弱き者を守る盾であり、強き者を挫く剣なのである!!》 《今!我々に必要な物は未曾有の危機を脱する力なのだ!その力は今まさに此処に存在しておるのじゃ!!!》 リリカルプロファイル 第二十話 陳述会 ガノッサ提督による演説は二時間にも及び、モニターにはエインフェリアの姿が映し出され、その中にはクロノ提督の姿も存在していた。 そして…その演説を冷ややかな目線を送り見つめるレジアス。 「いよいよ始めたか…ワシも急がねばならんな……」 そう一言呟くとモニターを切り、一人黙々と何かを打ち込む作業を始めるレジアスであった。 …一方此処は機動六課に存在する会議室、この部屋は防音機能が完備されており、外部に情報が漏れない造りになっている。 その部屋に、はやてとゲンヤそしてギンガの姿があった、目的は先日行われた共同戦線の情報交換を行う為である。 それぞれ情報を交換する中、はやては写真が貼られた資料をゲンヤに渡すと、黙って受け取り目を通す。 写真には後ろ髪を結った茶髪の少女の顔とその少女が持っていた無反動砲が写っており、資料の内容は少女が持っていた銃についてであった。 銃の名は表面上に書かれており、イノーメスカノンという。 解析の結果、命中精度・威力などが非常に高く多種多様な弾丸を撃ち出すことが出来ると、 だがその重さは尋常ではなく、とてもではないが写真に写る少女が持ち運び出来る代物ではないと綴られていた。 その内容に沈黙するゲンヤ、その表情に既に確信にも似た表情で話しかけるはやて。 「やっぱり…彼女達は……」 「あぁ、戦闘機人だ……」 ゲンヤの言葉に俯くギンガ、そしてはやては自分の考え出した答えが正しかったといった表情を見せる。 するとはやては失礼ながらゲンヤの妻、つまりギンガの母の事を調べたと話し始める。 …ゲンヤの妻、クイントは戦闘機人に関する調査を行い、その後原因不明の事故により死亡した。 そしてクイントの意志を引き継いだゲンヤが戦闘機人に関する情報を集めている事を掴んだと話す。 しかし当のゲンヤは自らの仕事が忙しく、中々情報を集められてはいない状況であった。 そこで今回の事件を機に、はやてが代わりに戦闘機人の情報を集めると提案、その為今まで得た情報を引き渡して欲しいと頼み込む。 するとゲンヤは目を閉じ腕を組み考え込む、その後暫くして目を開き、口がゆっくりと動き出す。 「…悪いがそれは出来ねぇな、事は戦闘機人だけの問題じゃあ無いんでな」 ゲンヤの答えに困惑するはやて、事は戦闘機人だけでは無い? …それはどういう事か再度聞いてみるがゲンヤは一切答える事は無かった。 暫く静寂が部屋を包むと呆れた様子でため息を吐くはやて、その顔は諦めに似た様子を表していた。 「…分かりました、戦闘機人の件は諦めます、そん代わり……」 「あぁ、連絡役も兼ねてギンガの機動六課への出向を許可しよう」 機動六課が掴んだ戦闘機人の情報をギンガというパイプラインによってゲンヤに伝える、 その為の出向でもある今回の申し出に応えたゲンヤは、ギンガと共に席を立ち会議室を後にする。 一人会議室に残されたはやては大きくため息を吐くと、流石自分の師匠なだけあって一度決めた事に対してガンとして動かないな…と思うであった。 一方ゲンヤと共に機動六課の通路を歩いていると突然ギンガが質問を投げかける。 「何故はやて二佐の申し出を断ったんです?」 「…クイントと同じ轍を踏ませない為に……だな」 その意味深な言葉に首を傾げるギンガだが、ゲンヤの目は遠く何かを見つめているようであった。 その頃なのははシグナムが運転するワゴン車に同乗していた、その理由は先日保護した少女が眠る聖王医療院に向かう為だ。 そしてシグナムもまた聖王教会に用があるらしく、次いでに乗せて貰っているのだ。 そしてなのはは、ワゴン車をマジマジと観察していると、ふと質問をかける。 「このワゴン車…シグナムさんの車なんですか?」 「あぁ、渋いだろう?」 シグナムの含み笑いにになのはは頬を掻く、話によると聖王教会にいた頃、 食事の配給などの仕事が多くあった為、沢山の荷物を運べるという理由で購入したと話す。 そんなシグナムの話を聞いているうちに聖王医療院に着くと、なのははシグナムと別れの挨拶を交わし医療院へと足を運ぶ。 医療院内ではシャッハが出迎えており、なのはは保護した少女の詳細を聞くとシャッハは快く応える。 保護した少女は人工生命体でフェイトやエリオと同じ境遇であると。 故に現場に残されていた生体ポットの中身の可能性がかなり高く、周りのガジェットが破壊されていた事から危険性があると指摘されていると。 そんな内容を通路を歩きながら聞きつつシャッハと共に少女が眠る部屋へ赴くと、其処はものけの殻であった。 シャッハは驚き開いている窓を覗くと、対象の少女が外へ出ようと走っており、 シャッハは窓から飛び降りるとデバイスを起動させ少女の前を塞ぎヴィンデルシャフトを構える。 少女は目の前に現れたシャッハに驚き、しりもちをつくと――― 「ふ………ふえええぇぇぇぇぇぇん!!!!」 「えっ?…………えぇ!?」 少女の泣き声に思わず戸惑うシャッハ、すると入り口からシャッハを追っていたなのはが姿を現し、少女を慰める。 そして病室を抜け出した理由を聞くと母親を探す為に抜け出したと、ぐずりながら話す少女。 少女は人工生命体である、母親など存在するハズがない、その記憶は元の遺伝子が持っていた記憶なのかもしれない。 しかしそんな素振りを一切見せず、なのはは少女の目線に合わせ見つめる。 「お名前いえるかな?」 「ヴィヴィオ……」 ヴィヴィオはそう名乗ると、なのははヴィヴィオの母親が見つかるまで自分が母親代わりになると約束を交わす。 するとヴィヴィオは、「なのは…ママ?」と恐る恐る口にすると笑みを浮かべ答えるなのは、 そのやりとりが何度も続くとヴィヴィオはすっかり泣き止み、その光景を見て唖然としているシャッハ。 するとシャッハの後ろで聞き慣れた声が響き、振り返ると其処にはアリューゼの姿があった。 「あっアリューゼ!?いつからそこに!?」 「…デバイスを起動させて、そのガキに向けているところからだな」 つまり一部始終見られていた事であり、顔を真っ赤に染めるシャッハに対し呆れた様子を見せるアリューゼであった。 それから数日後、ヴィヴィオはすっかりなのはに懐き、そのまま機動六課で面倒を見る事となった。 だがその代わり定期的に聖王医療院にて検査を行うという条件付きであるが。 そして今日はなのは、フェイト、はやての三人で聖王教会に赴いていた、その理由とはなのはとフェイトに機動六課の真の目的を伝えられる為だ。 三人は教会内に存在する会議室に赴くと三人は敬礼を行う、会議室にはカリムを中心に右の席にクロノが座っており はやてはクロノの隣の席、なのはとフェイトは左の席を順に座ると、クロノは早速説明を始める。 機動六課…いやかつての六課はカリムのレアスキル、プロフェーティン・シュリフテンによってもたらされた預言に描かれた、 ミッド滅亡を阻止する為に組織された部隊で、それは今も変わっていないと話す。 そして預言の内容を二人に告げると沈黙し、沈痛な面持ちを醸し出していた。 「取り敢えず今後は、中つ大地の奉の剣であるエインフェリアと、法の塔である地上本部を壊滅させない事だな」 今回の件でクロノは奉の剣をアインヘリアル計画の事と判断していると、するとはやてが質問を投げ掛けてきた。 「でも…あのエインフェリアって何なん?ただもんとちゃうのは分かるんやけども…」 「ガノッサ提督が説明していただろう、あれは人型デバイスだ」 命令を絶対に従う忠実なる存在、その姿はまさに奉公の剣であると。 そのエインフェリアの量産計画、アインへリアル計画の是非を問う公開意見陳述会が近く執り行われるという。 つまり、事を起こすとすればこの日が絶好ともいえる。 無論、事を起こそうとしている存在とはスカリエッティとレザードであるのは間違いない。 つまりその日こそが世界の命運を分ける日とカリムは考えており、皆もそれに賛同していると。 そして機動六課の真の目的の為に尽力して欲しいと綴ると三人は一斉に敬礼し、会議は終了となった。 それぞれが自分の部隊もしくは仕事場に戻る中、カリムは自分の予言に目を通していた。 一行目に書かれている“歪みの神”もしこれがレザードの事を指すのであれば我々は神と対峙しなければならないのか? だが我々の信仰に神は存在しない、それにあのような傍若無人な存在が神であるハズがない。 そう自分を言い聞かせ不安をぬぐい去ろうとするが、それでも不安は募るばかりのカリムであった。 場所は変わり此処はゆりかご内に存在する生体ポットが並ぶ部屋、その中でルーテシアは一つの生体ポットを見つめる。 生体ポットにはNo.XIと書かれたプレートが掲げられており、ポットの中には紫の長髪の女性が眠っていた。 「お母さん……」 そう一言呟くルーテシア、自分の目的は母親の病気を治し一緒に暮らす事、その為にはNo.XIと刻まれたレリックが必要なのである。 そして母親を助ける為に自分は修羅にも夜叉にもなる、その決意を胸にルーテシアは一つお辞儀をするとその場を後にした。 その頃スカリエッティは管理局に潜伏しているドゥーエと連絡を取っていた。 その理由は地上本部壊滅のタイミングを計る為である。 「つまり公開意見陳述会、この時が最も適しているというのだね」 「はい、ドクター」 モニターに映るドゥーエは頷くとスカリエッティに地上本部のセキュリティ情報を渡す。 確かにドゥーエの言う通りこの機を逃す手はない、それにゆりかごの方もほぼ修復を終えている。 つまりこの日こそ決起する時!…そう考え狂気を含む笑みを浮かべるスカリエッティであった。 一方、自室にてレザードは陳述会の内容に顎に手を当て考え込み、先日の戦闘で現れたエインフェリアの姿と見比べる。 今回の陳述会に出されるエインフェリアは巨大で標準的な魔力を生む動力炉に遠距離砲が配備され、まるで戦車のような姿をしており、まさに質量兵器その物であった。 その量産機とは到底思えない姿に不敵な笑みを浮かべるレザード。 「滑稽な…質量兵器を禁じている管理局が、このような形を取るとは……」 その性能も自分達が造り出したナンバーズとは程遠い存在、寧ろレザードは人型のエインフェリアに興味を持っていた。 彼らの材質は恐らくベリオンの内部に使われている物と同じダマスクス、アーティファクトの一つであるダマスクス製法書によって作成したのだろう。 そしてこの異常なまでの戦闘力、それはまさしく管理局側の戦闘機人と呼ぶに相応しいと言っても過言ではなかった。 スカリエッティは今回の陳述会を機に本格的に計画を始める様子、そして陳述会には必ず機動六課及びエインフェリアを出してくるだろう。 つまりは総力戦、そして自分もまた出ざるは終えないだろう…眼鏡に手を当て真剣な面持ちを浮かべるレザードであった。 その頃セイン・ノーヴェ・ウィンディの三人は今回の計画の際に進むであろう道を知る為、町に繰り出していた。 …尤もそれは名目で本当はある目的のため、町を練り歩いているのである。 三人はスーツに備え付けられている私服モードを利用し、ノーヴェは紺のGパンに白い半袖のシャツ、ウィンディは膝ほどの深緑の半ズボンに赤いTシャツ、 そしてセインは黒いダボッとした長ズボンに白いパーカー、更に黒いキャップとサングラスを掛けていた。 セインは先日の戦闘にて顔が割れている可能性がある為の処置である。 それでも街に繰り出したい理由は、町の中に点在する公園で売られているアイスを手に入れる為、それだけの為である。 そして三人は公園に存在するアイス屋へ赴くと、ウィンディはストロベリー、ノーヴェはオレンジとバニラのダブル、 セインに至ってはチョコミントにチョコチップ、更にマーブルにトッピングチョコをまぶした物を注文する。 「…セイン、そんなに頼んで大丈夫なのかよ?」 「知らないのノーヴェ?こう言うのは別腹って言うのよ」 「なるほど…セイン姉は腹が二つ有る訳か」 「……そんな訳無いじゃないッスか」 ノーヴェの天然さに呆れるウィンディ、恐らく基礎となる遺伝子がそれをさせるのだろう。 そんな事を考えるも三人はそれぞれのアイスを手にし、ベンチに座ると食べ始める、 セインに至っては、がっついて食べており、その光景に頬を掻く二人。 そしてアイスを食べ終えるとベンチから立ち公園を離れ、当初の目的を遂行する為、行動を始める。 そして最短ルートを調べ、そのルートを進みセインの目標の地である地上本部へ辿り着く。 そして見上げる三人、この地を今度の戦闘で壊滅させてみせる、そう意気込む三人であった。 それから数日後、此処地上本部の近くに存在するホテル内では、翌日に行われる公開意見陳述会の準備に追われていた。 そして表の中庭にはアインへリアル計画によって創り出されたエインフェリアが三体並んでおり、 その大きさは十メートル以上にも及ぶ、どうやら動力炉の大きさに合わせて造られているらしい。 そして警備には本局の局員数十名、会場内は機動六課のなのはとフェイト、そして地上本部の局員の手によって行われ 残りの機動六課はホテル周辺を警備する事が決定していた。 そしてなのはとフェイトは一足早く会場入りする為、フェイトは車の用意をしており、 隊舎入口にはフォワード陣とヴィヴィオが見送る為に並んでいる、するとなのは達はスバルとエリオを呼び寄せる。 「スバル……レイジングハートの事お願いしていい?」 「私も…エリオ、バルディッシュの事お願いね」 会場ではデバイスを持って入ることは出来ない、その為最も信頼できる人物、スバル達に持ってて欲しいと頼むと快く応じる。 そしてなのははヴィヴィオに目線を合わせ、優しく話しかける。 「それじゃあ明日までには帰ってくるから、ちゃんと病院に行くんだよ?」 「ぜったいに?……やくそくだよ、なのはママ」 ヴィヴィオの問い掛けに力強く頷くと指切りをするなのは、そしてその光景に自分の過去が重なり暗い顔を見せるティアナ、 …かつて自分の兄は指切りした後、二度と戻ってくる事は無かった…… …だがなのはさんに限ってそんな事が起きるハズが無い!そう自分の考えを自重するように拳を握るティアナ。 その後なのは達を見送ったヴィヴィオは定期検査の為、ヴァイスが操縦するヘリで一路聖王医療院に向かうのであった。 翌日、他のメンバーもまたホテルへと赴き厳重な警備の中、公開意見陳述会は開始される。 陳述会ではガノッサがアインへリアル計画の必要性を熱く語っており、状況は賛成の方に傾きつつある中、レジアスの姿は見受けられなかった。 そして、陳述会会場から数十キロ離れた先にナンバーズとルーテシアにゼスト、 そしてベリオンがそれぞれの役割を果たす為の配置についており、それを確認したクアットロはスカリエッティと連絡を取る。 「ドクター、此方は配置は完了しましたぁ」 「ご苦労様…では始めるとしようか……」 スカリエッティの合図の下、今此処に“ラグナログ”計画は発動したのである…… 前へ 目次へ 次へ オマケへ
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戦いは、すでに始まっていた。 アンデッドとこの世界の住人の初戦闘。だが、やはりアンデッドに勝てはしないだろう。 アンデッドは死なない。封印能力を持つジョーカーかライダー、または統制者の力が無ければアンデッドは決して止められないのだ。 案の定、あの守護獣はものの見事に打ち倒されていた。 そしてあの獣人を受け止める二人の女性ににじりよるアンデッド。 そこに、ようやく奴は現れた。 「遅いぞ、剣崎ぃ!」 思わず歓喜の叫びが漏れる。そうだ、今こそ奴の力を解放するときだ。俺が倒すべき力を。仮面の力を! 俺は煙幕を兼ねたステルス結界を展開しながら、奴の元に接近していった。 リリカル×ライダー 第十話『ライダー』 「俺は、『仮面ライダー』だ!」 カズマから溢れ出す力。封印されていた力が解放され、細胞の一片までも余すところ無く活性化される。 銀色に光るアーマーの各部に穿たれたスペードの刻印、ハンドガード部に展開式のカードホルダーが設けられたことで本来の状態に戻った醒剣ブレイラウザー。 ライダーシステム二号機、ブレイド。 これこそが、カズマの刃だった。 「そうだ、それだ! その力こそ僕が打倒したかったものだ!」 イーグルアンデッドは空から地上の煙幕越しにカズマを見つめる。その鋭い瞳は、最高の獲物を見つけたことによって輝いていた。 カズマは空を見上げる。未だ煙幕は濃く、視界には白い煙しか映らない。だが彼の視線は正確にイーグルアンデッドに向けられていた。 そんなときだった。 『久しぶりだな、剣崎君』 「えっ!?」 突然チェンジデバイスから声が発生する。 その声が、台詞が、カズマの様々な記憶を揺さぶる。 (剣崎……そうだ、俺の名字だ。そうだ、俺はこんなもので仮面ライダーに変身したりはしなかった。何故? それにこの男は……) 『剣崎君、今は目の前のことに集中したまえ』 その台詞にはっとする。そうだ、今はこの上級アンデッドの封印が先決だ。 『手短に説明するが、そのチェンジデバイスには魔導師モードとライダーモードがある。 今はライダーモードを起動しているが、ライダーモードは全機能を解放するモードだからその状態でも魔法は使用可能だ。すぐに飛行魔法を使用したまえ』 「待て、アンタは一体――」 『君の恩人であり、君を苦しめる者。忘れているだけだよ、君は。さぁ、急げ。剣崎君』 それきりチェンジデバイスは何の反応もしなくなった。 カズマは嘆息をつきながら両脚に力を込める。そう、今はそんな瑣末なことを気にしてはいられない。戻った力を使って、目の前の脅威を振り払わなければならない。 「フライブースター!」 『Fly booster』 力強く地面を蹴り上げ、カズマは飛翔する。 イーグルアンデッドの待つ、蒼空へと。 ・・・ ついに憎きライダーが本来の力を取り戻した。 欠けていた刻印とカードも戻り、かつて戦ったときと同じ姿になった。ベルトだけは違うが、それはどうでもいいことだ。 そう、これでかつての雪辱を晴らすことができる……! 「ライダーァァァッ!」 「うあぁぁぁあぁっ!」 俺は鉤爪を振るい、奴は醒剣を奮う。 激しい摩擦音と火花。 パワーは同じだが、技のキレは増している。やはり記憶も連動して戻っているのだろう。前回の野獣そのものの戦い方とは別人のようだ。 互いに力を入れて相手を吹き飛ばし合いながら一旦間合いを取る。 そして僕は自らの鉤爪を遠心力がかかるように振り回しながら奴に叩き付ける! 「ぐっ!?」 だが奴はそれを剣で受け流し、あまつさえ反撃としてこちらの腹を蹴飛ばした。 「うあぁぁぁっ!」 更なる連撃。 こちらが怯んだ隙を突くように斬撃を放ってくる。それは滝のような激しさと流麗さ。 「調子に乗るなっ!」 僕はそれを鉤爪で受け止めつつお返しに奴のヘルメットを左手で殴り飛ばす。 勝負は全くつかない。 僕は戦術を変えるために翼を羽ばたかせ、高度を一気に上げた。 「食らえ!」 奴の上空から羽根を展開し、奴に撃ち込む。数十の魔弾はそれぞれが独自の軌道を描きつつ、ライダーを射抜かんと迫る。 『――SLASH』 「でやあっ!」 同時に奴は剣の側面にあるカードリーダーにカードをスラッシュさせ、アンデッドの力を引き出す。 互いの渾身の一撃がぶつかり合い――その余波が僕を襲撃する。 「何っ!?」 両翼を畳んで盾としながら何とか防ぐ。 信じられなかった。 いくら奴がアンデッドの力を操る能力を持っているとしても、上級アンデッドが放つ精魂の一撃を容易く破れるはずがない。 (何故、だ……?) 奴を見る。 その無機質な仮面に付いた複眼からは、今までとは違う澄んだ力が感じられる。そう、目の輝きが以前より増している。 だがそんなことはどうでもいい。僕は、勝たねばならないんだ! 「ライダァァァアァァァッ!」 奴に向かって突撃する。己の信じる得物に全てを託し、身体中の細胞を躍動させ、自らの全てを懸けて。 『――KICK』 奴はカードをスラッシュさせた後、足元に魔法陣を展開させ、その上で独特の構えを取りつつ剣を魔法陣に突き刺す。 「僕は、カリスと決着をつけるんだ!」 「俺は皆を、全ての人々を守るんだ!」 互いが誇る最強の攻撃。 僕の突きと奴の蹴り。 原始的で単純で、それ故に最強足り得る攻撃が衝突する――! 「……が、はっ」 結果、アンデッドの力を纏ったライダーの蹴りは僕の腹に直撃し、僕の突きは奴の剣によって受け止められた。 「がほっ、ごっ」 身体から力が抜けていく。敗者の証明として、アンデッドバックルが開かれる。 たかが低級アンデッドの力を纏っただけの、人間の一撃。しかしそれはこの僕を確実に貫いた。 (これが、奴の――人間の、力……) ――人間は弱い。けれど強い。 過去が一瞬フラッシュバックする。 カリスと決闘の約束を交わした後、残ったアンデッドの掃討をしている時の記憶。 ――僕らには、守るべき者がいるから。 そう、自分を倒した存在。カリスではないただの下級アンデッド。 ヒューマンアンデッドの記憶。 (そう、か。奴には……) それを理解した数瞬後、僕は一枚の紙切れに吸収されていく自分を感じた。 ・・・ 「ようやく、ここまで来たな。剣崎君」 広大な広間に広がる機械群。空中に展開される無数のモニター群。たった一人の人間には広すぎるはずの空間は、それらによって狭くすら感じる場所となっていた。 その一枚には、緑の光になりながら一枚のカードに封印されていく一体の上級アンデッドが映っていた。 それを封印するのはブルーのインナースーツにスペードの刻印があしらわれた銀色の装甲に身を包む仮面の戦士。 「いよいよ奴も、そして橘君も動き始めたようだし、これから忙しくなるよ」 一人の男がデスクに腰を下ろしてコンピューターを操作する。壮年の皺が入った頬を引き締め、紫の短髪をかき揚げながら彼は機械を操作し続ける。 「頼むよ、剣崎君。あの偽物を追い詰めてくれたまえ。私があの男を殺すために。そう、過去に清算を付けるために」 モニターに四人の女性に囲まれた白衣を着た長髪の男が映る。その画面を注視しながら、男はキーボードを力強く叩いた。 そこに映し出されるのは膨大な量の文章。正確には一つの物語。 だがそれは彼が書いたものではない。周辺のモニターに映る数値に合わせて更新されている、いわば計画書。 「これは、私のケジメなのだからな」 男は静かに、画面に映る白衣の男を睨み付けた。 ・・・ 結局、煙幕もとい妨害結界のせいで戦いの一部始終を見ることは叶わなかった。 後方支援部隊のロングアーチも妨害によって今回の戦闘を記録することができなかったと報告している。指揮官自ら戦場に出向いたのもミスだったかもしれない。 「しかしどうやってあの怪物を倒したんやろう……」 最後に見た緑の閃光を発しながら消えていく怪人の姿が思い出される。あの現象が何なのかも分かっていない。 すでに染み付きつつあるため息を漏らす。まだ19歳なのにどないしよー、となのはちゃんやフェイトちゃんに相談する始末だ。せめて皺などは入らないようにしなければ。 閑話休題。 「フェイトちゃんとティアナが帰ってきてくれて良かったわ」 ちょうど戦闘が終了した一時間後に二人は捜査を終えて帰ってきていた。ザフィーラが重傷を負った時だったので心強い限りだ。お陰で六課の防衛は二人に任せることができる。 なのはちゃん達はまだ二日ほど帰ってこられないのもあって、二人の存在は想像以上に六課の皆を安心させている。というより、私が安心しているのだが。 かつてJS事件のときに一度隊舎を破壊されたことがあるので、その安心感は何よりも欲していたものだ。私は広域殲滅魔法が専門だから迎撃などは向いていないし。 「カズマ君も元気みたいやしな」 あの戦闘後、今までとは打って変わって明るく元気になったカズマ君は、今はフェイトちゃん達と夕食を取っている。 本当は私も行きたかったのだが、今回の事後処理にザフィーラの通院申請と、やることが山ほどあったので諦めた。 「私はいつも退け者やぁ……」 独り言が増えたのは内緒だ。 ・・・ 高い天井と広さを兼ね備えた部屋を橙色の灯りが照らし出す。 ホテルのロビーのように整っている部屋は、しかしホテルのように誰かを迎え入れるようには作られていない。 そこは作戦室。 または闘技場。 円形のそこは、そのような用途で作られていた。 そこに現れる影が二つ。 片方は以前と比べてさっぱりした薄紫の髪と白衣が特徴の男、ジェイル・スカリエッティ。 もう一人は彼の秘書にして、戦闘機人――スカリエッティの生み出した一種のサイボーグ――でもある妙齢の美女、ウーノ。 スカリエッティは単に広い場所を求めてここに来ただけらしく、大量の機材をカプセルのような外見をしたガジェットⅠ型に運ばせてきていた。ウーノは彼についてきただけのようだ。 スカリエッティはある装置の上に以前手に入れた緑を基調に金の装飾の入った箱を置く。装置を起動させると、いくつものモニターが空間に浮かび上がった。 「やはり、偽物だな」 「……はい?」 突如呟くスカリエッティに、ウーノが戸惑いながらも問いかける。 スカリエッティが思い付きや考えなしに独り言を言い出すのは今に始まったことではないのだが、ウーノがいちいちご丁寧に反応するのも今に始まったことではない。 「ウーノ。これはね、オリジナルを元に誰かが作り出した贋作なのだよ」 「は、はぁ」 ウーノとて頭は悪くはない。いやむしろ秀才とすら言っていいほど彼女の頭脳は優れている。戦闘機人故にそれはコンピューターそのものとすら言えるほどだ。 しかし彼女には柔軟性という人間として決定的なものが欠けていた。 「カードの方も偽物だ」 憎々しげに吐き捨てる。そう言いながらカードもしっかりと手放さずに握りしめているのだが。 「オリジナルはおそらく何らかの不死生命体のようなものから力を汲み出す装置のようなものだったんだろうが、これは魔力を通せば特定の効果が発動するだけの、ただのデバイスだ」 デバイスカードといったところか、と漏らすスカリエッティ。 ウーノにはやっぱりついていけなかった。 「これもレンゲルクロスという名前らしいことは分かったんだがね……」 偽物なのが残念だ、と言いながら弄り回す。しかし何だかんだ言いながら、スカリエッティはそれをいたくお気に召しているらしかった。 彼の顔に張り付いた笑みが、それを証明していた。 「失礼します」 そこに現れる新たな影。 「どうしたんだね、セッテ」 影の正体は、薄桃色の可愛らしいストレートヘアに似合わない無表情を浮かべた少女だった。 彼女、セッテはスカリエッティ奪還には参加せずに秘密基地の確保に向かったナンバーズであり、彼女を含めた四名が今スカリエッティの元に残ったナンバーズである。本来は12名もいたため、今は三分の一に戦力が低下していた。 「ラボのシステムが完全に復旧しました。これで全ての部屋に動力が供給されます」 「御苦労、休んでいてくれたまえ。これからまた忙しくなるからな」 「ドクター、これから何かなさるのですか?」 その言葉に、ウーノが素早く反応した。 「当然だ。良い玩具も手に入ったことだし、ゲームでも始めようと思ってね。機動六課には借りがあるんだし、もうすぐ解散するそうだから、いっそのこと”消してしまえばいい”と思ってね」 ウーノの言葉に顔を醜く歪めながら答えるスカリエッティ。だが彼の視線はウーノにではなく、レンゲルクロスの横のカプセルに注がれていた。 そう、レンゲルクロスに似た、三つの機械に。 「ドクター……。いえ、わかりました」 ウーノは答える。そう、彼女は決してスカリエッティには逆らわない。彼女は他の愛し方を知らないのだから。 ・・・ 久しぶりに会ったフェイトとティアナとの夕食。それが終わった俺は、外に出て空を眺めていた。 記憶。 そう、俺は、重要な記憶をいくつか思い出していた。 まずは本名。剣崎一真という己の名。 そして自らの正体、正確には仕事。それが、仮面ライダー。 最後に、俺が戦う理由。 それは、イーグルアンデッドとの戦いが思い出させてくれた。 (そうだ。俺は、母さんや父さんの時みたいに後悔したくない) 脳裏に過る灼熱の業火。明るく弾ける我が家と、光に押し潰される両親。何も出来ずに打ちひしがれるだけだった幼い過去の自分。 ようやく思い出せた、自らの存在意義。 (俺が例え何者であろうと、人々を守らない理由にはならない) それが、ようやく分かった。 まだジョーカーとして活動していた頃やライダーとして戦っていた頃の記憶は曖昧だが、今はこれで十分だ。アンデッドが発生している原因を突き止め、この世界の人々を守る。それを決意することができたのだから。 そうして自分の気持ちに整理をつけ、隊舎に戻ろうとした刹那―― 「――動かないで」 凛とした声が、俺を押し止めた。 ・・・ ついに本来の力を取り戻したカズマだが、そんな彼に彼女が戦杖を突き付ける。 そして二人の前にあの男が立ちはだかる――! 次回『火焔』 Revive Brave Heart 目次へ 次へ
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時間は遡り、なのはとレザードの戦いは端から見れば拮抗していると思われる程の戦いぶりを見せていた。 だがレザードの表情には未だ余裕があり、全力を出してはいないであろうと感じるなのは。 一方でなのはは既にブラスター3を発動している状態、このまま拮抗が続けばいずれなのはが敗北するのは必死である。 しかしなのはの顔には焦りを感じている表情は無く、寧ろそれに不気味さを感じるレザードであった。 リリカルプロファイル 第三十八話 覚悟 そんな戦況の中でなのははレザードにレイジングハートを向けてディバインバスターを発射、 しかしレザードは旋回しながらこれを回避し、左人差し指を向けてライトニングボルトを放つ。 するとなのははラウンドシールドを張りこれを防ぎ、続いてアクセルシューターを撃ち放つが、 レザードはアイシクルエッジにて相殺、拮抗が徐々に破られつつあった。 すると其処に一つの影が姿を現す、その正体はフェイトであった。 フェイトはなのはが戦っているこの広場へと足早に向かっていたのだ。 「なのは!助けに来たよ!!」 「フェイトちゃん!スカリエッティは逮捕出来たの?」 なのはの質問にフェイトは口を噤み下を向いて影を潜む表情を醸し出し、その表情に困惑するなのは。 すると対峙していたレザードがその理由を語り出す、スカリエッティはもし自分が管理局に捕らわれる事になったら、 自らの意志で自らの命を絶つ覚悟を持っていたという、つまりはスカリエッティは自害したのだろうとフェイトに代わって答えた。 「そんな………何故!?」 「…それ程までに管理局が気に入らなかったのでしょう……」 肩を竦め小馬鹿にした表情を浮かべながら語るレザード、だが理由はそれだけではなかった。 逮捕されれば懲役を受ける事は明白である、だが管理局には協力を約束する変わりに懲役を減らす制度がある。 管理局は十中八九その制度を用いて交渉をしてくるだろう、スカリエッティは管理局からの脱却が目的である、 それ故に管理局に尻尾を振るぐらいならいっそ自分の手で幕を閉じると言う覚悟があったのだ。 しかしこの事を二人に話したところで理解は出来ないだろう、 レザードはスカリエッティの覚悟を胸の内にしまうと、改めて二人と対峙する。 「まぁ、いいでしょうそんな事は…今重要なのは私の邪魔をする者が増えた…という事実ですから」 「……ずいぶんと余裕ですね」 「それはそうでしょう」 女小娘が二人になったからと言って自分の方が優勢である事は変わりはしない、左手を眼鏡に当て不敵な笑みを浮かべるレザード。 その表情に不快感を現す二人であったが、寧ろ余裕のあるレザードの度肝を抜こうと考え、 フェイトはライオットザンバー・スティンガーを水平に構え、なのはもまたレイジングハートを向けて対峙する。 先ずはフェイトが先行しレザードの懐に入ると左の刀身を振り下ろすのだが、 レザードは右手に持つグングニルで受け止め、フェイトは続けて右の刀身を水平に構え突く。 だがレザードは滑るようにして後方へと回避、更に左手を向けてクロスエアレイドを放つ、 しかしクロスエアレイドはなのはのアクセルシューターによって撃ち落とされ更にレザードに向けてショートバスターを放つ。 するとレザードは急降下してショートバスターを回避し床すれすれを滑走、なのはに向けて衝撃波を放つ。 だがフェイトが間に割り込みスティンガーにて衝撃波を切り裂き、後方ではなのはがアクセルシューターを撃ち放った。 しかしレザードはリフレクトソーサリーを張りアクセルシューターを跳ね返したのだが、間髪入れずにフェイトが接近 左の刀身を左へ薙払うようにして振り抜くがレザードはグングニルにて左の刀身を受け止める。 するとフェイトは右の刀身を左の刀身に合わせ一つにし、ライオットザンバー・カラミティに変えて一気に振り切り レザードはその衝撃に耐えきれず吹き飛ばされるがすぐさま着地、するといつの間にか上空に移動していたなのはが、 レイジングハートをレザードに向けており、ディバインバスターを撃ち鳴らした。 一方レザードは依然として冷静で左手に青白い魔力をたぎらせると、直射砲のようなライトニングボルトを撃ち放ちディバインバスターと激突、 そして見る見るうちに押していく中、なのははカートリッジを一発使用、出力を上げ ライトニングボルトを押し返し始め、最終的に相殺という形で終えた。 一方でフェイトはレザードからかなり離れた後方に移動しカラミティをスティンガーに変えソニックムーブを発動、 金色の一筋と化してレザードに迫るがレザードは全方向型のバリアを張り攻撃を防ぐ。 ところがフェイトはお構いなく何度も切りかかり、まるで無限の剣閃ともいえる程の動きをしていた。 そんなフェイトの攻撃によりバリアに亀裂が走りそれを見たフェイトは更に速度を上げて攻撃、右の振り下ろしが決め手となりバリアを破壊、 するとフェイトはスティンガーをカラミティに変えてとどめとばかりに下から上へすくい上げるかのように振り上げた。 だがレザードはフェイトの攻撃のタイミングに合わせてシールドを張り攻撃を受け止め更に前宙のような動きでフェイトの頭上を舞い床に着地、 攻撃から難を逃れたかに見えたが、レザードの左上空にはなのはが陣取っており、 レイジングハートのカートリッジを三発使用、先端から環状の魔法陣が張られていた。 「ディバイン…バスタァァァ!!」 撃ち放たれたディバインバスターがレザードに迫る中、左手で大型のシールドを張り攻撃を受け止めると、 なのははカートリッジを一発使用、ディバインバスターを強化させ、更に威力が増すとシールドに亀裂が生じ始める。 その後暫くしてシールドが砕け散りレザードはディバインバスターに飲まれていった。 ところがレザードは上空へと移動しており、足下には五亡星の魔法陣が張られていた。 レザードは常に準備してある移送方陣を発動させてディバインバスターの驚異から逃れたのである。 なのはは悔しそうにレザードを睨みつけている中、レザードは驚いた様子で左手の感触を確かめていた。 先程張ったバリアに加えシールドすら破壊された…三賢人の時のように相手を油断させる為にわざと強度の低いシールドやバリアを張った訳ではない。 十分な強度で張っていたのだが彼女達は実力でバリアやシールドを破壊した、それ程までに彼女達の攻撃には威力がある… つまり彼女達は既に三賢人以上の能力を持っている事を指し示しているのであった。 「ふむ…その杖の影響とはいえ、これ程の力をつけていたとは……」 レザードは素直に二人の実力を賞賛する中、なのはの下にシャマルからの連絡が届く。 それは今し方はやてがベリオン及び動力炉を破壊したというものであった。 しかし動力炉を破壊したというのにゆりかごは依然として動いたままである、 それはゆりかごに存在する自己防衛モードによるもので、本体自体に残されている魔力によって飛行を維持されているのであった。 しかしベリオンの破壊…その内容にフェイトはスカリエッティと対峙した時の事を思い出す。 彼はベリオンとゆりかごを使ってミッドチルダを破壊するという計画があった、 だがベリオンは破壊されゆりかごも既に機能としては不完全と化している、 つまりこれはスカリエッティの計画は失敗に終わったという事を指し示しているのであった。 一方でなのは達の報告を小耳に挟んだレザードは眼鏡に手を当てていると、 不敵な笑みを浮かべたなのはがレザードを指差し声を上げた。 「ゆりかごもベリオンも無くなった!これで貴方達の計画は失敗に終わったの!!」 「失敗?まさか…確かにゆりかごは使い物にならなくなりましたが、計画そのものは支障ありませんよ……」 「どうゆう事?!」 レザードは肩を竦め小馬鹿にした表情でなのはの問いに答え始めた。 世界を崩壊などレザードが本気を出せば簡単に導く事も可能である、だがレザードはそれをしなかった。 理由はスカリエッティにあった、スカリエッティは自分の手で枷を外そうとしていた、 その気持ちをくんで敢えてレザードは前に躍り出て行動をせず、知識を与え準備を手伝うまでで止まったと、 結果スカリエッティはゆりかごを復活させ更にレザードから得た魔法技術によってユグドラシルと呼ばれる魔法陣まで造り上げたという。 「何故そこまでスカリエッティの計画に荷担するの!!」 「そうですね……興味があったから…ですかね」 そう言ってレザードは眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべる、もとより深い理由など無かった、 最初に出会ったのがスカリエッティであっただけ、そして彼の計画に興味がわいた…それだけであると、 尤も今はレザード自身にも目的が生まれ、それを実行に移すには管理局という存在は邪魔であると語った。 「貴方の目的って何ですか!!」 「シンプルなものですよ…誰しもが望む事……」 しかし自分の目的は他の者達と違って管理局を敵に回す為に対峙する事となった…それだけであるという、 そしてレザードはゆっくり深呼吸をして一度上を向くと瞳を閉じて黙り、なのは達は固唾をのんでいると暫くして瞳を開き なのは達に目を向け目的を口にする。 「“愛しき者”と一緒になる…それだけですよ」 「…………………えっ?!」 レザードの目的を聞いた二人は暫く固まっていると、レザードが意気揚々に語り出す。 スカリエッティの技術とレザードが御守りとして大事にしていた神の毛によって生まれた存在チンク。 彼女は戦闘機人にしてレザードが愛する神のクローン、彼女と添い遂げる事が目的であり、 それを実行するには規制を促している管理局が邪魔な存在となる、結果スカリエッティと利害が一致した為に協力したのだと語る。 …そんなレザードの身勝手過ぎる理由に二人は睨みを利かせ激怒した。 「狂ってる……そんな理由で世界を破壊しようとしているんですか!!!」 「そうですか?私にとっては意味のある理由なのですがね……」 “愛しき者”と一緒になりたいと言う気持ちは誰しもが持っている感情、だがそれを許さずまた反対する者を裁けるだけの力があれば 誰もがそれを行うであろう…そうレザードは言葉を口にするが、なのははレザードの意見に真っ向から反対する。 なのはにも“愛しき者”がいる、だがもし彼の生まれが特殊であったとして、 自分に反対する者を裁けるだけの力を持っていたとしても行使する事は無いと語る。 「偽善…ですね……」 「そう捉えられるかもしれないけど、少なくとも貴方の意見には賛同出来無い!!」 「それは残念だ……ならば此処等で御退席して貰いましょうか」 するとレザードの足下から青白く光る五亡陣が現れ、青白く光るレザードの魔力が白く輝く魔力に変わり、 レザードの全身は光の粒子に包み込まれ、次に右手に持っていたグングニルがネクロノミコンに戻りレザードの目の前で浮かび光を放つと、 一枚一枚ページが外れ白く輝く魔力に覆われレザードの周りを交差しながら飛び回り、 そしてレザードのマントは浮遊感があるようにふわふわと漂い、レザードの体も同様に漂うと足下の魔法陣が消え去った。 モードIIIカタストロフィ、大きな破滅または悲劇的な結末と言う意味を持つこのモードは レザードが自ら掛けたリミッター全てを外し愚神の力を解放した状態である。 「まさか…ここまで魔力を強化出来るなんて……」 「……何か勘違いしているようですが…これが本来の私の力です」 レザードの放った言葉は二人を動揺させるには充分過ぎる言葉であった、今目の前で放たれている魔力は二人のようにデバイスをリミットブレイクさせた もしくは自己ブーストしたものであると思っていた、だが実際は何て事無い能力リミッターを解放させただけに過ぎないと言うのだ。 しかもレザードの話ではこの力は神から手に入れたのだという。 「そんな……貴方も神の力を手にしているなんて…」 「貴方達のような微力な力と一緒にして欲しくはありませんが……」 「なっ何ですって!!」 「何なら試してみてはどうです?」 そう言ってレザードは二人を挑発すると、二人はその挑発に乗りデバイスをレザードに向けて構え始め、 先ずはなのはがアクセルシューターを八発撃ち出し攻撃を仕掛ける、しかしレザードは舞うようにしてこれを回避、 一方でフェイトはソニックムーブを用いてレザードに接近、依然として回避しているレザードの背後を取り 手に握られたスティンガーをカラミティに変えて絶好のタイミングで振り下ろす、 だが魔力刃はレザードの体をすり抜け、すり抜けた所は光の粒子を化しており暫くして肉体に戻っていった。 「どっどうなっているの?」 「ふっ…貴方達ではこのアストラライズされた肉体を傷付ける事など出来はしないという事ですよ」 そしてレザードは右人差し指をフェイトに向けるとレザードを覆う光の粒子の一部がグングニルに変わり発射、 フェイトはカラミティの魔力刃を盾にしてグングニルを防ごうとしたが、呆気なく刃は砕け散り腹部を貫き通した。 一方でなのははレザードに向けてエクセリオンバスターを発射、放物線を描くようにしてレザードに迫っていくが、 レザードは肉体を光の粒子に変えてこれを回避、更になのはの足下を光の粒子による爆発を起こし、しかも離れた距離に移動していた。 一方で床に伏せ腹部を貫かれたフェイトは痛みに耐えていると、光の粒子の爆発に巻き込まれ高々と舞い上がるなのはを目撃、 すぐさま近づき安否を心配するとなのははゆっくりと立ち上がり、遠くでほくそ笑んでいるレザードを睨みつけた、どうやら命に別状はないようである。 「くぅ………此処まで…差があるなんて…」 「ふっ…やっと理解出来ましたか」 ほんの少し戦闘を行っただけではあるのに、レザードとの圧倒的な差を痛感する二人。 此方の攻撃は一切通用しない、魔力も身体能力も遥かに向こうが上回っている、どうあがいても“二人”では勝ち目がなかった。 ならば最後の手段を執るしかない、なのはとフェイトはお互いに見つめ合うと小さく頷き腰に添えてあった杖に手を伸ばす。 「ほぅ…まだ何かする気なのですか?」 「…私達は…諦めが悪いんだよ!」 なのはは一言口にして右手に持つ杖に魔力を、フェイトは左手に持つ杖に魔力を込める。 するとなのはの足下に赤い三角形が三つ均等に並ぶ魔法陣が、フェイトの足下にも同じ模様の青い魔法陣が張られ、 杖が力強く輝き出すとまるで祈るようにして瞳を閉じ二人同時に杖を魔法陣に突き刺す。 すると魔法陣は更に強く輝き出し光の柱となって辺りを照らし始めると、二人の頭上から 黒いローブを纏い背中にそれぞれ赤と青の計六枚を翼を生やし、頭には天使の輪がついた 流浪の双神を呼び出し光が落ち着いていくと、突き刺した杖がまるで灰のようにして跡形もなく消えていった。 一方でレザードは二人が呼び出した者が分かったらしく流石に驚きの様子を隠せずにいた。 「まさか…神を召喚するとはな……」 「ほぅ…成る程、我々の力を借りたいと言うのがよく分かる」 イセリアクイーンはレザードの肉体に宿る力を感じ、なのは達が協力を仰ぐ理由を理解する、 それほどまでにレザードの能力は常軌を逸していたのだ、そして流浪の双神は右手に杖を携えレザードに向ける。 「貴方には悪いが、これも契約なのでね…」 「神が二体…少々楽しめそうだ……」 流浪の双神を目の前にしても未だ余裕のある様子を浮かべるレザード、その反応になのはとフェイトは不安感を覚える中、 戦闘が開始され先ずはレザードが牽制としてアイシクルエッジを二人目掛けて撃ち出すが、 二人は手に持つ杖でいとも簡単に防ぎ、次にガブリエセレスタが杖を振り下ろす。 ところがレザードはグングニルを形成しガブリエの攻撃を受け止める、するとイセリアが時間差でレザードに攻撃を仕掛け 貫くようにしてレザードの腹部を狙い撃ち直撃、勢いよく吹き飛ばされるレザードであるが、 右手を向けてクールダンセルを放ち氷人形が二人の前で襲いかかる、だが二人は冷静に対処に当たり杖で氷人形を打ち砕いた。 「流石に神の前ではアストラライズは意味をなさないか……」 「当然だ、肉体を幽体にする事など造作もない」 レザードを一目見た瞬間から幽体化している事を見抜いた流浪の双神は、同じく肉体を幽体に変えて対処に当たったようであり、 これはレザードのアストラライズを無効化された事になる、だがレザードの表情には焦りの様子が無く その表情を遠くで見上げているなのは達には不安を募らせていた。 一方場所は変わり此処スバル達とチンクが戦闘を繰り広げている広場では、 スバルのナックルダスターをマテリアライズで形成した左の盾で防ぐチンクの姿があった。 「くぅ!やっぱ堅い!!」 スバルはカートリッジを一発使用してナックルダスターの威力を高めるが、一向に砕け散る様子がない盾。 一方でエリオは距離を離しストラーダを向けてカートリッジを二発使用、先端部分から魔力刃が形成されると一気に突撃、 まるで弾丸を思わせるような速度でチンクに迫っていく、一方でエリオの存在に気が付いたチンクは スバルの攻撃を流すようにして盾を傾け見事に受け流すと、その場で一回転しエリオに目を向け、 右手に携えた刀身を振り上げ魔力刃ごとエリオを高々と吹き飛ばした。 だが上空にはキャロが待機しており、フリードリヒに指示を促しエリオを回収、更にブラストレイをチンクに放つ、 ところがチンクはブラストレイを既に読んでおり既に移動して回避、カートリッジを一発使用すると脇差しのような小型の刀を二本生成、 勢い良くキャロに向かって投げつけるが、脇差しはティアナのクロスファイアによって撃ち落とされた。 するとチンクを囲うようにしてクロスファイアが六発向かってきており、チンクは盾を使って弾こうとしたところ盾は光の粒子となって消滅、 一つ舌打ちを鳴らし悔しそうな表情を浮かべるも、クロスファイアを右往左往しながら回避し更に右手に持つ刀身にて三発打ち落とした。 ところがクロスファイアは更に五発追加されて迫ってきており、チンクはまたもや一つ舌打ちを鳴らすと、 左手で床の一部を掴み取り、原子配列変換能力を用いて長刀の刀を形成し、右の刀身と左の刀によって次々にクロスファイアを撃ち落としていく。 その時である、チンクの後方からスバルが勢い良く右拳を振り上げており、拳には衝撃波が纏っていた。 「リボルバァァ!キャノン!!」 だがスバルの気配に気が付いたチンクは左の刀を盾代わりにして攻撃を受け止めると、 今度はスバルの拳のカートリッジを一発使用してスピナーを高速に回転させて衝撃波を撃ち出すリボルバーシュートを撃ち抜き、 左の刀は二つに折れ衝撃波はチンクの胸元に突き刺さり吹き飛ばされていく。 だがチンクは吹き飛ばされながらも自身のISであるランブルデトネイターを用いて刀を爆破、 スバルは爆発に巻き込まれ周囲は土煙が舞い散り、暫くして落ち着いていくと 其処には全方向型のプロテクションを張り爆発から逃れたスバルの姿があった。 「やはり…間に合っていたか」 チンクは一つ舌打ちを鳴らしスバルと対峙している中、攻撃後オプティックハイドを発動させて 姿を隠しているティアナが今までのチンクの戦闘を基に分析を行っていた。 先ずスバルから予め聞いていたチンクの能力であるが、マテリアライズは魔力を原料として生成、非破壊効果を持つが三分程度で消滅する、 一方で原子配列変換能力は物質などの媒介を魔力によって変換させる為に消滅する事は無いが非破壊効果を持たない、 しかしあの爆発能力であるランブルデトネイターにより爆弾に変える事が出来るようなのだが、 確かな威力を誇るには三分以上時間を要するようで、マテリアライズで生成した武具では時間的にも非破壊効果的にも不可能である可能性が分かった。 そしてチンクは動きを先読みすることが出来るようで、此方の攻撃や行動の先の動きを行っていた。 しかし先読み出来るのはチンクが見た対象のみ目線から離れた若しくはティアナのように隠れた対象の動きは先読み出来無いようである。 つまり背後もしくは目の届かない場所からの攻撃が有効なのであるが、 チンク自身も危機察知能力が高い為か、中々思うようにいかないのが現状である。 「でも今はこれしか打開策が無いか……」 結局のところこれ以上の有効な対策が無い為に引き続き指示を送るティアナであった。 一方でスバルと対峙しているチンクは先手を取りスバルに攻撃を仕掛ける、 だがスバルは依然として全方向型のプロテクションを張り巡らせたままでチンクの攻撃を受け続けていた。 「成る程…考えたな」 どうやらスバルに攻撃の目を向けさせる事により、他のメンバーの行動を先読みさせないよにする作戦のようである。 一方でエリオはフリードリヒの背中にてキャロからフィジカルヒールを貰い体力を回復させると、 フリードリヒから飛び降り床に着地、ストラーダをチンクに向けてカートリッジを三発使用、 メッサーアングリフを放ち見る見るうちにチンクに迫る。 「甘いな、その程度の動き先読みしなくても分かるわぁ!!」 チンクはエリオの攻撃を半歩体をずらして容易くかわし不敵な笑みを浮かべるが、 エリオは急速停止し左足を滑らすようにして反転、左の裏拳による紫電一閃を打ち抜こうとした。 ところがチンクは腰を素早く下ろし裏拳を回避、更にスライディングキックにてエリオを迎撃、 するとエリオの攻撃に続けとばかりにスバルが飛び出し、右手にはスピナーの回転により螺旋状と化した振動エネルギーを纏っていた。 振動拳と呼ばれるスバルのISである振動破砕を用い、持てる技術を尽くし完成させた必殺の一撃である。 一方でスバルの拳を目撃したチンクは危機感を感じマテリアライズにて大型の盾を生成し備えた。 そして激突、辺りには振動拳の衝撃が伝わり床を削るようにして破壊、チンクもまた盾とともに床を削りながら吹き飛んでいく。 だが盾を破壊する事は出来ず盾が消滅すると無傷のチンクが顔を覗かせていた。 「これでも…駄目なのか……」 スバルは絶望の淵に追いやられたかのような表情を浮かべている中でチンクに異変が訪れる。 それはチンクの表情が痛みに耐えているような顔つきで更に左膝をついたのだ。 今までとは異なる反応にティアナは一つ確信する、マテリアライズされた武具は破壊する事は出来ない、 だが武具に受けた衝撃全てを受け止められる訳ではない、本来であれば破壊される程の衝撃を受ければ その衝撃は武具を通し本人に伝わり、そのままダメージを負うという事であると。 つまりは強烈な攻撃であればたとえマテリアライズされた武具でもダメージを与える事が出来る訳である。 そしてチンクを撃破するに当たって一番要なのが一撃の威力に定評があるスバルであった。 一方でチンクは自分が受けたダメージが思っていた以上である事に驚きを感じ、またスバルに警戒を浮かべていた。 これ以上攻撃を受ければ敗北するのは必死、憂いは経たなければならない…そう考えたチンクは真っ先にスバルを始末する事に決めた。 「貴様から先に叩いてくれる!!」 「そうはさせない!!!」 するとエクストラモードを起動させたエリオが割って入り、左拳に雷を纏わせ自身最速のソニックムーブにてチンクの懐に入る。 一方でチンクはエリオの行動を先読みし、攻撃を避けられないと悟るや否やマテリアライズにて大型の盾を形成した。 しかしエリオはお構いなく盾の上から何度も紫電一閃を連打しチンクを釘付けにする、 そして更にカートリッジを全て使用して右手に持つ小型化したストラーダに魔力を込め何度も盾を突き刺した。 「奥義エターナル!!レイド!!!」 最後に魔力と雷を込めた突きが盾に響き、その衝撃により盾ごと吹き飛ばされるチンク しかしエリオの攻撃を防ぎきったチンクは反撃を行おうと睨みつけるとエリオが声を荒らげた。 「今です!ティアナさん!キャロ!!」 チンクは辺りを見渡すと右上空にはエクストラモードを起動させ、フリードリヒの胸元に存在する竜紅玉に魔力を溜め込みいつでも撃てる用意があるキャロと、 少し離れた左側にエクストラモードを起動させクロスミラージュを水平に構え、その中心を軸に巨大なエーテルの球を作り出し、いつでも放てる用意があるティアナがそこにいた。 どうやら二人はエリオの攻撃の最中に準備を始め、エリオの攻撃が終わる頃を見計らって攻撃出来るように準備を整えたようである。 『奥義!!』 「ドラゴンドレッド!!」 「エーテルストラァァァイク!!」 エリオの合図の下、間髪入れず撃ち放たれた二つの強力な一撃がチンクに迫る中で、 もう一度マテリアライズを行い、同じ大きさの盾を用意して防御に当たるチンク。 そして激突と同時に大爆発を起こし、辺りには衝撃波が走り巨大な土煙がチンクを覆い隠す中 土煙が落ち着き始めると其処には巨大な盾に身を守られていたチンクの姿があった。 「そんな…効いてないの?」 「………いや!効いてる!!」 盾が光の粒子となって消滅した瞬間、チンクは左膝をつき表情に曇りの色を見せ、ティアナは最後であるスバルに目を向け指示を送る。 だがその一方でチンクの足下には多角形の魔法陣を幾重にも張り巡らせており、何処からともなく声が聞こえ始めた。 「汝…其の諷意なる封印の中で安息を得るだろう…永遠に儚く……」 「いけない!広域攻撃――」 「セレスティアル!スタァァァ!!」 チンクを中心に輝く羽が舞う複数の光の柱が立ち上り、更に広がっていくとティアナ・エリオ・キャロそしてスバルを飲み込んでいく。 そして辺りは光に包まれ暫くして光が落ち着いていくと其処には床に這い蹲ったエリオ・キャロ・ティアナの姿があった。 だがその中で全方向型のプロテクションを張っていたスバルだけがチンクの攻撃耐え抜いた姿があり、 スバルの姿を見たチンクはカートリッジを全て使用、足下に白い五亡星の魔法陣を張り 全身を白く輝くまるで白金を思わせる魔力で包み込むと、半身を開き構え素早くスバルの懐に入る。 そして矢のようなスライディングで足下を攻撃し後ろを取った瞬間に振り下ろし、間髪入れず振り上げスバルの体を浮かせる。 更に右からの袈裟切り、左からの払い、そして下から切り上げ更にスバルの体を宙に浮かせると、 巨大な槍が三本スバルの左右の脇腹から肩にかけて、脊髄から腹部にかけて突き刺す。 そして剣を納めスバルの頭上まで飛び上がると背中から光の翼を生やし、翼が光の粒子となって右手に集うと巨大な槍に変化した。 「これで終わりだ!奥義!!ニーベルンヴァレスティ!!!」 そう叫ぶと槍は白く輝く鳥に変わりスバルを貫く、そして白色の閃光は大きな粒上に変化 スバルを中心に集い圧縮され暫くして大爆発、辺りには爆音と共に衝撃波が響き渡り土煙が覆われていた。 「す………スバルゥゥゥゥゥゥ!!!」 ティアナの悲痛な叫びが辺りに響き渡る中でチンクは静かに着地、だが連続のマテリアライズに広域攻撃魔法、 更にはカートリッジ全てを使用したニーベルンヴァレスティと魔力を大量に消費した為、 かなりの負荷が体にのしかかったらしく左膝をついて肩で息をしていた、だが憂いでもあったスバルは倒れ他の仲間も床に伏している、 チンクは勝利を確信した表情で顔を上げると、土煙の中から腕をクロスに構え、チンクの攻撃に耐え抜いたスバルの姿があった。 「ばっバカな!!私の最大の奥義を耐え抜いたというのか!?」 「次は……コッチの番だぁぁぁ!!!」 スバルは両拳を握り締め足を肩幅まで開き構えると両腕のカートリッジを全て使用、大量の赤い魔力が炎のように溢れ出し 両拳には螺旋状と化した振動エネルギーを纏い、両足には赤い翼のA.C.Sドライバーが起動していた。 そして一気に加速し一瞬にしてチンクの懐に入るや否や、右のナックルダスターがチンクの胸元に突き刺さり、 続いて両拳からの上下のコンビネーションであるストームトゥースにマッハキャリバーとの息のあった拳と蹴りのコンビネーション、キャリバーショット そして左のナックルバンカーがチンクの顎を捉え跳ね上げると、右のリボルバーキャノンが腹部に突き刺さってめり込み 更にスピナーの衝撃を放つリボルバーシュートにてチンクを高々と舞い上がらせる。 すると今度はウィングロードを伸ばして滑走、チンクに追い付くと環状の魔法陣が二つ張られ 加速された赤い魔力球が握られた右拳をチンク目掛けて振り下ろした。 「奥義!ブラッディィ!カリスッ!!!」 振り下ろされた右拳はチンクの腹部に突き刺さり九の字に曲げると、そのまま垂直落下とも言える角度のウィングロードを滑走、 床に大激突し辺りに激しい衝撃が走る中でその中央ではスバルの拳をきっかけに、赤い魔力と混ざった振動エネルギーが波のように溢れ出しチンクの身を何度も叩きつけ 甲冑や兜は砕け散りスカートはボロボロ、そして左耳に取り付けてあったデバイスは砕け散ったのであった。 母のシューティングアーツに機動六課での特訓、リボルバーナックルの性能にエクストラモードの能力、 更にはスバルの今までの戦闘経験やセンス最後にISによって完成されたブラッディカリスはまさに一撃必倒と呼べる威力を誇っていた。 そして放たれた赤い魔力が落ち着くと其処には眼帯を失い、至る所が切れてボロボロの戦闘スーツ姿に戻ったチンクが仰向けの状態で倒れており、 チンクの姿を見たスバルは勝利を確信したと同時に両膝を付き肩で息をしていた。 するとスバルの勝利を祝ってかティアナ達が集まり激励を送るのであった。 時はチンクが撃破される前まで遡り、イセリアは女王乱舞にてレザードを攻撃、 だがレザードはシールドを張って攻撃を全て防ぎその中で詠唱を始め、ファイナルチェリオをイセリアに向けて反撃した。 だが一方でガブリエが接近し右手に持つ杖を振り下ろすがレザードはグングニルで防ぎ難を逃れる、 その間に攻撃に耐えたイセリアが背後を取り杖を振り抜きレザードを吹き飛ばすが、 レザードは右手を向けて直射型のライトニングボルトを放ち、イセリアはシールドを張ってこれに対抗した。 一方なのは達はレザードと流浪の双神の熾烈な戦いに唖然とした表情を浮かべていた。 するとなのはの下へティアナからの連絡が届く、それは今し方スバルがチンクを倒したという内容であった。 一方なのはの報告に小耳に挟んだレザードは動きを止め驚愕な表情を浮かべすぐさまモニターを開くと、 其処には仰向けで倒れているチンクの姿が映し出されていた。 「バカな…私の“レナス”が………」 レザードは頭を押さえ、まるでこのような結末を望んでいなかったと思わす表情を浮かべ、うなだれていた、 一方でなのは達は勝利を確信した表情を浮かべていた、戦況はこちらが優勢 しかもフェイトから聞いていた計画の要でもあったチンクは此方の手中にある、そして他のメンバーも此方に集うであろう。 そして流浪の双神も存在する、もはやレザードは袋の鼠状態、これ以上の抵抗は無意味であるとなのはが伝える中、 微動だにせず依然として俯き頭を手で押さえ、うなだれてるレザードの姿にフェイトが声を荒らげる。 「何か言ったらどうです!!」 「…………………」 しかしレザードは答えず長い沈黙が続き動きが一切無い中、レザードの体から金色の砂のような物が次々に垂れ出し、 それは床に落ちて徐々に広がり部屋全体を覆い輝かせる。 「なにこれ?!」 「術式………かな?」 それはよく見ると文字のようで部屋全体に書かれたのだろうと言うのがフェイトの見解である、 すると今まで沈黙していたレザードが静かに言葉を口にし始める。 「…たかが一介の魔導師が私の計画を潰し、あまつさえ我が“愛しき者”を傷付けるとは……」 次の瞬間なのは達の体に異変が起きる、それは今までとは異なり体に負荷がのしかかり、 それはまるで能力リミッターを掛けられた時と同じような感覚を覚えていた。 なのは達は自分の体の異変に戸惑っていると、レザードが振り返り押さえていた手を降ろしその表情は怒りに満ち鬼の形相と化していた。 「――許せん!!!」 自らのお気に入りであり“愛しき者”であるチンクを傷付けた罪は重い、そう口にすると左手を掲げるレザード そして――― 「跪け!!」 左手を振り下ろした瞬間、何かがのし掛かったかのように全身が重くなりなのは達は床に伏し、その光景はまさに跪いているかのようであった。 その中でイセリアがゆっくりと立ち上がりレザードに向けて杖を振り払い衝撃波を生み出す。 だがレザードは迫ってくる衝撃波をまるで埃でも払うかのようにして右手を払いかき消した。 「どっどうなってるの?!」 「なる程な……」 なのはは戸惑う中イセリアが説明を始める、レザードの体から放たれたこの術式により 肉体・魔力更には攻撃の威力まで十分の一以下にまで押さえつけられているのであろうと語る。 一方でレザードは再び左手を掲げなのは達を浮かばせると左右の壁、上下の床や天井に次々にぶつけ更に叩き落ととすようにして床に激突させた。 「殺しはしない!死んで楽になどさせるものか!!」 すると今度は大量のイグニートジャベリンを用意して一斉に発射、なのは達の身を次々と貫いていく、 だがレザードの攻撃は終わらず続いてダークセイヴァー、アイシクルエッジ、プリズミックミサイルなどを次々撃ち抜き 必死の形相で回避またはバリアやシールドなどで防ごうとした、しかしレザードの放った魔法の威力はそれらを簡単に打ち砕きその身に浴び次々に倒れていくなのは達。 そして最後にレザードは詠唱を破棄してファイナルチェリオを撃ち放ち、その衝撃により床壁などを吹き飛ばした。 「どうしましたぁ!?この程度で終わりですかぁ!?」 レザードは尚も挑発を促しなのは達を立たせていく中、なのは達の表情は絶望に支配されていた。 此方に攻撃を仕掛ける暇も与えず、もし攻撃出来たとしても大したダメージを与える事が出来無い、 更には流浪の双神すら手玉に取られている状況、正に今のレザードは“破壊を求める者”といっても過言ではなかった。 そんな状況になのはとフェイトは塞ぎ込んでいると二人の下へ流浪の双神が駆け寄り二人に話しかけた。 「一つだけ…奴に対抗出来る手段がある……」 「えっ?それは一体?!」 「私達との融合…ユニゾンと置き換えてもいい」 二人のどちらが流浪の双神と融合する事により一時的にレザードと対等の力を得ることが出来るという、 だが神とのユニゾンは大きなリスクを伴い、下手をすれば器となった存在の魂が消滅する可能性を秘めていた。 つまりレザードとの実力差を埋めるにはそれ程までのリスクを背負わなければならないと言う事である。 すると神の話を聞いたなのはが覚悟を秘めた表情を浮かべ言葉を口にし始める。 「だったら私が―――」 「私を器にして下さい!!」 「―――フェイトちゃん?!」 なのはの決意を遮るかのようにフェイトは言葉を口にし困惑するなのは。 するとフェイトが説明を始める、なのはにはユーノやヴィヴィオなど大切な人がいる、その人達を泣かせる訳にはいかない、 だからなのはの代わりに自分が器になると告げるとなのはは反発した。 「何言ってるの!フェイトちゃんにもエリオやキャロが―――」 「二人なら私がいなくても大丈夫だから」 先だってのスカリエッティとの戦いで見せた二人の決意、それを耳にしたフェイトは二人が自分の下を巣立ったのだと確信した それになのはは自分の命を救ってくれた、その恩を返す為にも今ここで自分が器になる、そう覚悟を決めたのだという。 「なのは……みんなの事をお願―――」 次の瞬間なのははフェイトに当て身し気絶させると、悲しい表情でフェイトを見つめるなのは。 いくらフェイトの願いであってもそれを受け取ることは出来なかった、何故ならレザードとは自分の手で決着をつけたかったからだ。 ホテル・アグスタを始め地上本部での二度の敗北、そしてヴィヴィオを誘拐され絶望の淵に追いやられた。 それらを払拭する為にも自分の手で行わなければならないと覚悟を決めていたのだ。 「……良いのだな?」 「覚悟はもう…決まってるの!」 なのはの決意ある瞳を見た流浪の双神は小さく頷き、気絶するフェイトから離れ三人はレザードに近づくと、今度は流浪の双神がなのはとある程度距離を置く、 そして足下に巨大な三角形が三つ均等に並ぶ魔法陣を張り巡らせると、今まで沈黙を守っていたレザードが見下ろす形で言葉を口にする。 「まだ悪足掻きをするつもりですか?」 「言ったの…私は諦めが悪いって!!」 するとなのは足下に流浪の双神と同じ桜色の魔法陣が張られ輝き始めると、それに呼応するように流浪の双神の魔法陣も力強く輝き出す、 そしてその輝きは一種の壁となり三人は声を合わせて言葉を口にした。 『ユニゾンイン!!』 「何ぃ?!」 流石のレザードも驚きの表情を浮かべていると、流浪の双神はそれぞれ赤と青のエネルギー体になり更に球体に変化、 魔法陣ごとなのはに近付き胸元に吸い込まれていくようにして収まると、次の瞬間大量の桜色の魔力が天井を突き破るかのようにして溢れ出し魔力がゆっくり収まっていく。 其処には背中に桜色の六枚の翼を生やし胸元の黒い部分は透けて谷間が強調されたロングスカート型のバリアジャケット 足下は金で装飾された金属製のハイヒール型の具足に変わり外側の両足首部分からは桜色の翼が生え、 結っていたリボンが無くなり髪型はストレートヘアー、更に桜色の天使の輪が浮かんでいた。 そしてレイジングハートは力強くまるで冷え切っていない溶岩のように赤いクリスタルが輝き、 ストライクフレームから現れる魔力刃は鋭く分厚く左右からは四枚の小さな翼が生えていた。 なのはの変貌にレザードは依然として唖然した表情を隠せないでいると、 今まで瞳を閉じていたなのはの瞳が開き、金色に輝くその瞳でレザードを突き刺すように睨みつけた。 「覚悟っ!!」 「一介の小娘が神とユニゾンだと……いいだろう相手をしてやろう!!」 するとレザードは、まるで北極星を思わせるようにして力強く輝き白金のような色と化した魔力を高めていき、 一方でなのはは自分の体を確かめるかのようにして体を動かし、レイジングハートの先端をレザードに向けて対峙する。 いよいよ戦況は最終局面を迎えるのであった……… 前へ 目次へ 次へ
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リリカル・コア外伝第2話「騎士と鴉」 「えーと、今日の分の日誌はこれで良し、後は月例報告に添付する画像はと……」 エリオ・モンディアルは自身に割り当てられた端末と向かい合って格闘していた。 「あのデータ、何処に入れたかな……?」 機動六課在隊時に当時スターズ分隊副隊長だったヴィータに仕込まれたとは言えまだまだぎこちない。 エリオにとってはこのようなデスクワークよりも訓練、そして今ではキャロやルーに及ばないとは言えそれなりに 心を通わせれるようになった自然保護区の動物達と交流しているほうが落ち着くというのが本音である。 「あった。これを添付して……」 「エリオ、ちょっといいかい?」 「タントさん?どうかしましたか?」 「ちょっとね」 書類を作成後、提出し裁可して貰う現在の上司に声を掛けられる 「すいません、書類にはもう少し時間がかかりそうなんです……」 「ああ、それはまだいいよ。でも来たばかりの頃に比べれば大分此処にも業務にも慣れてきたね?」 「はい、おかげさまで」 六課解隊後、エリオはキャロと供に自然保護隊へ異動した。 エリオには他の三人と違い、前任部隊は無く、陸士部隊―特に一線級部隊から―からの引く手数多であったが、 結局自身の希望を通してもらう形で自然保護隊への転属となった。 六課解散後から一年と少し、牧歌的な“後方部隊”と揶揄されることもある辺境自然保護隊とは言えど、密猟者等の 追跡や捜査も一義的には任務として負っており、密猟者と向き合えば立派に“前線部隊”となる。 そんな中対密猟者戦において自然保護隊内の専門部隊以外、数少ない取り締まりも出来る保護官として実績も上げていた。 騎士として鍛練は一日も欠かさず行い、六課時代よりも上達のテンポは少し遅くなったものの、今では誰もが一目置く 自然保護隊最強の一角である。 「ちょっとお願いがあるんだ」 「お願いですか?」 「そう、ちょっとした荷物の受け取りに行って欲しいんだ」 「荷物の受け取りですか?それじゃあフリードと一緒に……」 「いや、そんなに大きくないから一人で大丈夫だよ」 タントが言葉を区切る。 「荷物って何なんですか?」 「時々大きな規模で発生してる“蟻”の話は聞いてるね?」 「“蟻”って……、まさか……?」 「うん、そう。“バグ”。幾つかの世界で猛威を振るう“蟻”さ」 “蟻=バグ”。 何者かが作り出した生物兵器とされ、女王を中心とした集団、つまり蟻に似た組織を作り地中深く潜み、 時々現れては人間の生活圏を脅かす生命体。 「やっぱり人の手による物……、何でしょうか?」 「おそらくね、自然の生命体がその世界以外で同種が確認されるのは極めて稀、自然保護隊や過去の記録を見ても殆ど無いよ」 「この世界への流入があったんですか?」 「まだだよ、でも大分前に“蟻”が一つの都市を壊滅させた時、何者かが開発した極めて強力な駆除剤を使用したんだ。 そのおかげでその都市の“巣穴”の“蟻”を全滅させれたんだ」 その都市の住人はは殆ど死亡したんだけど……、タントが付け加える。 「荷物というのはその駆除剤の事ですか?」 「やっと生産が軌道に乗って此処にもそれが回ってくるということさ。備えあれば憂いなし。でも物が物だから受け取りに 行って欲しいんだ」 「でも、あれって人の手が入った生命なんですよね?研究元を叩かないと……」 「ああ、それなら君の保護者さん達がやってるよ」 「フェイトさんですか?」 「……くしゅん!!」 「風邪ですか?」 「うーん、違うと思うけど……。何て言うんだっけ?」 「……人が噂してるから、ですか?」 「そうそれ」 (フェイトさんなら四六時中誰かが噂しててもおかしくないと思うんだけど……) ティアナが当然の疑問を脳裏に思い浮かべ、すぐにそれを打ち消す。 「えーと、報告の続きですが、“バグ”といわれる生物兵器群の開発元とされるケミカル・ダイン社ですが クローム社の解体後、グループ企業だった同社の企業内の研究内容は細切れにされ散逸、 何処にあるかも分かりません」 「あー、それじゃこの線は望み薄?キサラギの方が望みが在るかな?」 「そうでもありません。ケミカル・ダイン社の実験施設と思われる施設の場所の特定に成功しました。そこには まだ稼動中の記録媒体があるかもしれません。つまり……」 「どこで“実地試験”をしていたかが分かると……。さすが、ティアナ、よく分析したね」 「これぐらい出来なければ執務官補の名が泣きますから。でもコイロス浄水場で発生した生物ですか? これも生物兵器って言われてますが……。なんでこんなものばかり作るんですかね、人って……」 ティアナはため息一つ、フェイトも同じ気持ちだった。 鉄道貨物ターミナル。列車の引込み線にクレーンが聳え立ち、周囲には色取り取りのコンテナが並ぶ、そしてコンテナを 積載するためのトラック・ヤード……。 普段こじんまりとした場所を中心に動くのに慣れたエリオにはこの貨物ターミナルの広さは圧巻であった。 「広い……、この施設だけで六課の施設ぐらいの敷地ぐらいはありそう」 タントに示された荷物保管所だけでもエリオの観点からすれば大きい部類に入る。 「すいません、荷物の受け取りはこちらですか?」 受付と思しき場所を見つけそこに明らかに暇をもてあましている係員 「はい、どちら様でしょう?」 「時空管理局自然保護隊、エリオ・モンディアル一等陸士です」 受付の顔に一瞬驚きが走る。だがそれも一瞬、すぐに仕事の為の顔に戻る。 一応は自然保護隊の制服を着用しているとは言え自分がおそらく管理局員として驚かれているのではなく、かつての 機動六課の隊員の一人として驚かれているのにエリオは慣れていた。 「積載されたコンテナはわかりますか?」 「特別仕立てのコンテナって聞いてるんですが……」 係員が端末を向き、 「それでしたら……。えー、管理局使用のコンテナですが次の列車で到着するとの事です」 「次のって、どのくらいですか?」 「まあ、後四十分程度ですね」 「エントランスで待たせて貰って良いですか?」 「どうぞ」 係員の言質を取り、エントランス内で適当な場所を見つけ、そこに座る。 あまり危険は感じられず、リラックスできる空間。冷房が効き過ぎずなおかつ暑くない申し分無しの場所。 だがエリオは自分がこの敷地内に入ってからずっと監視されていたのに気付いていた。 (外の車両に一人、監視カメラ、警備員がエントランスと廊下の向こうに二人ずつ……。ストラーダ、他には?) 《建物の外、小隊規模の“有明”を確認しています》 念話でストラーダに確認。しかし高々一等陸士を監視するにはあまりに物々しい警備。 (僕ってそんな危険人物に見える?) 《もしくは別の何かを警戒してるのでは?》 (うーん、ストラーダ、一応記録しておいて) 《Ya》 「間も無く着くそうです。一応契約上、コンテナの封印を解くのをお願いします。解除手順は分かりますか?」 「大丈夫です。ストラーダ、コードは分かってるよね?」 《Ya》 この係員がエリオを見て驚くのは二回目。デバイスを使ってることに驚いたようだ。一応民間では警備・巡察等を除く、 通常の任務では攻撃的なデバイスの所持・仕様には一応の規制が掛けられている。 重要な荷物の受け取りとは言え、通常の任務の観点から見れば取るに足らない任務である。デバイス、特に六課謹製の ストラーダは過剰といえば過剰な装備であるといえる。 「いいデバイスですね?」 「……?ありがとうございます」 係員がそういったのは皮肉かそれとも正直な感想かエリオには分からなかった。 建物の外、強い日差しが降り注ぎ敷かれたコンクリートを熱していた。 各区画を結ぶ連絡路の一つをエリオは職員の誘導に従い、その中を歩く。 自身の歩く先、目的地と思しき場所までには“有明”が二機、着座していた。 (ストラーダ、周囲の状況は?) 《“有明”の小隊に動きはありません。我々を見ているのは監視カメラのみです》 取り越し苦労だったのか、一応彼らが注目しているのは別の何からしい。 「あの、此処って何時も警備は厳重なんですか?」 エリオが自分を先導する職員に聞いた。 「さあ、何処もこんなモノだと思いますよ?」 職員の答えは素っ気無いモノだった。その答えが疑わしい物であるのは明々白々。 (タイミング、悪かったかな……?) エリオの思考が巡ろうとした時、周囲の平和な空気が一変した。 電柱に着きえられたスピーカから何者かの襲撃を伝える警報と警告。 『管制塔より全職員へ、敵性飛行体が接近、所定のシェルターへ移動せよ。繰り返す……』 「……え?」 まさかの事態に思わず素っ頓狂な声を上げる。管理局の質の悪い冗談でもこんな事はない。 「……状況は?……こちらも避難させた方が良いのか?」 先導の職員が手持ちの端末で確認していた。 (ストラーダ、通信を聞ける?) 《可能です》 ストラーダから直に送られてきたのは管制塔と警備小隊の交信。 <管制塔、接近に気が付かなかったのか!?> <NOEで接近された。レーダーの探知が遅れたんだ!!> <前衛より各機、機種を確認した。“ウェルキン”無人攻撃機だ> <こちら管制塔、全火器の使用を許可、繰り返す……> <リーダー了解。小隊全機、施設への被害を最小限に抑えろ> 最後の通信と同時に“有明”が動いた。 エリオの正面に着座していた二機はほぼ同時に起動し、右手に持つサブマシンガンを発砲。 発砲音が空気を震わし、さらに排夾されたカートリッジの地面に落ちる音が響く。 思わず耳をふさぎ、頭を下げた。 だが目は周囲を確認し、体は自然とひざを曲げ、半屈の姿勢をとり、次の動きに備える。 エリオ達の後方から別の音が聞こえ振り返る。後方にいた一機が背部のブースターを点火、地面の コンクリートに脚を擦り、火花を上げながらこちらに向かっていた。 「危ない!!」 通過した一機は寸前で跳躍、二人の上を影を残し通過していった。 エリオと職員、二人とも顔の前で腕を組んで通過の風圧に耐える。 その次に来たのは弾幕を抜けた“ウェルキン”が一機、航過していく。 機体下面に装備された大口径機関砲は一機の“有明”を狙う。が、狙われた機は半身を取って寸前で回避。 “ウェルキン”は狙った機体に回避されたとはいえまだ地上に攻撃する目標はあった。 エリオと職員、“有明”に比べれば容易な標的。 「……不味い!!ストラーダ!!」 『Sonic form』 子供とは思えないような力と爆発的な加速で以って自身と職員を射線上から退避させる。 つい先ほどまで居た空間を機関砲がなぎ払い、破片をばら撒く。 (……あれ?) 職員の体に接触した時、、そして抱えた時、職員の体は妙に堅く、普通の人間とは思えない違和感を持っていた。 (ボディーアーマー?それに……拳銃型のデバイス?) 違和感の正体はすぐにわかった。職員は着ていた作業服の下にボディーアーマーを着込んでいる。 さらに右の腰には外側からは簡単に判らないように拳銃型のデバイス、さらに予備弾倉を携帯していた。 (一般職員までここまで武装をしている?) そもそも一般職員が武装するのであればそれは着用する必要は殆んど無い。 警備班が警報を鳴らした後にでも装備を付けさせれば良い。“普段の業務”では戦闘装備は不要な物だ。 だが此処に居るのは本当に一般職員なのか?手際よく管制塔への連絡を取った手腕、落ち着いた交信内容。 しかもただのターミナルにしては豪華すぎる警備小隊の“有明”配備……。 (もしかしたら……) おそらくはこの襲撃を此処の職員達は知っていた、もしくは予期していた可能性に思い至る。 建物の陰に隠れ、職員を下ろし、建物を盾に周囲を見渡す。 しかし襲撃側の狙いはなんなのか?皆目見当が付かなかった。 「此処は危険です!!」 端末を耳からはずした職員が叫ぶ。エリオは現実に引き戻される。 かれのその声は耳には入っている。だが目は空を飛ぶ“ウェルキン”を追い、耳は聞きながら周囲の 闘騒音を拾い、頭は周囲の状況を組み立てる。 「これがテロであれば管理局員として見逃すわけにはいきません!!手を貸します!!」 「しかし、此処は社有地です!!管理局員といえど礼状や所有者の許可無くデバイスを使用するのは……!!」 職員の言葉は正しい。しかしエリオには違う教えがあった。 「……大丈夫ですよ」 努めて表情を殺し、低く落ち着いた声をだそうとする。 「……な、何がですか?」 職員の顔が引きつった。 成功だ。エリオは内心ガッツポーズ。 「例えどんなのが相手だったとしても!!……ストラーダ!!」 騎士甲冑の着用は人前で裸をさらすようなもの。が、いまはそんな贅沢は言ってられない。 (最初の発光で目をつぶっていますように……) エリオはそう願いつつ、騎士甲冑を着用、待機状態から実体化したストラーダを握り、振るう。 「降り掛かる火の粉を払って!!……まずはお話を聞いてもらうんです!!」 吐き捨てるように叫ぶとストラーダで以って加速、空に舞う。 エリオは航空魔道士ではないがストラーダを使えば限定的な空戦は可能。 「ストラーダ、敵の数は!?」 空に上がったと同時に周囲を確認、自分の目にも見えるがストラーダのセンサー系の方が広く全周をカバーできる。 『“ウェルキン”を十機以上確認。警備の“有明”は敵味方不明とします』 ストラーダが眼前に索敵結果を表示。テロリスト側は“ウェルキン”、こちらは敵性を示す赤。 “有明”は六機、こちらも味方とは言い切れないが一応は味方に近い緑の表示。 <こちらターミナル管制塔!!エリオ・モンディアル一等陸士へ!!状況への介入を依頼していない!!直ちに退去しろ!! 繰り返す!!直ちに退去しろ!!……退去しない場合は貴官もテロリストとして対処する!!> 管制塔からの警告。 「時空管理局、エリオ・モンディアル一等陸士です。場所と状況は承知しています。 ですが今は人手が少しでも必要なはずです!!」 <こちらリーダー、管制塔へ。その通りだ。手駒は多いほうがいい。ロハであの“機動六課”が手助けしてくれるんだ。 最高の援軍だろ?> 此方は警備小隊のリーダーらしき機体からの通信が割り込む。ご丁寧に管制塔と自機の場所を送ってきた。 管制塔の位置はエリオからそう離れていない。しかもご丁寧に敵機の動きも付いている。 ストラーダが自身のデータを更新、表示した。 <リーダー、指揮権は此方にある!!余計な事を言うな!!> 管制塔の指揮官らしき男が叫ぶ。 <……所長!!来ます!!> 管制塔を目標に定めた“ウェルキン”が居た。数は二機、機首を管制塔に向け、機関砲の射程距離まで猶予は無い。 「……!!」 ストラーダが噴射ノズルを制御、エリオはそれに併せ方向変換と増速の動作をとる。 両手でストラーダを保持、コートをはためかせ一直線に“ウェルキン”に向う……、のではなく、少し軌道をずらし 管制塔を掠める軌道を取る。 <……待て、一体何を……> 管制塔の内部の人間がこちらを見る。 真横を通過する瞬間、ストラーダの噴射を停止、さらに急制動。 一瞬、体が浮いた。再びストラーダの噴射を再開だがあくまで一瞬だけ強力な姿勢制御用の噴射。 足が堅い物を踏む。地面ではなく、管制塔の強化ガラスを足で強く踏む。 「ストラーダ!!」 『Sonic form』 見せ付けるようにガラスを蹴り、再び加速、狙うのは前方の二機。 おそらく管制塔はストラーダの煙で視界は遮られている。 “ウェルキン”は突然の乱入者に臆する事無く機関砲を向け発砲。 機首下面のが光る寸前にエリオとストラーダはランダムで噴射を繰り返し接近。 相対速度の関係で接触するまではほんの一瞬、手の届くような距離にまで接近すればよし。 飛び道具を殆んど持たないエリオにとっては相手に以下に早く接近するかが一番重要なこと。 速度を保ったままストラーダの穂先に魔力刃を展開、すれ違いざまに一機の翼を切り落とす。 もう一機は標的をエリオに変更、急旋回に入るがエリオのほうが動きが早い。 急旋回のため速度を落とした“ウェルキン”の機体のほぼ中央にストラーダの魔力刃を突き立てる。 二機撃墜。戦果を確認すること無く、エリオは着地。地上で気配を殺し、絶えず周囲に目を配る。 何機かの“ウェルキン”が“有明”の十字砲火を受け墜落していくのが見えた。 <子供にしては良くやるようだ。だが……> 先ほどのリーダー機からの通信。強い敵意は感じられない。だが歓迎をしているとは感じられない声音。 <だが覚えておけ、お前はあくまで無許可で戦闘しているということだ。ああ、一応此方とリンクさせろ そっちの方が都合がいいだろう?> 『Ya』 ストラーダがエリオの代りに返答を代行、データリンクを表示。 「手出ししないほうが良かったかな?」 『降り掛かる火の粉は自分で払うのでは?』 ストラーダの返答。もしかしたら自分はとんでもない越権行為に手を染めてるのではないか? 疑問が脳裏をよぎる。 だが、今はそれを考える時ではない、疑問を頭から振り払い次の“獲物”に視線を定める。 「ストラーダ!!」 ストラーダが応える。不安定な飛行ではあるが、それを可能にするのはエリオとストラーダの相性の良さと 一人と一機のポテンシャルの高さ。 このコンビにとってガジェット並みかそれ以下の無人兵機など物の数ではない。 戻る 目次へ 次へ
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ジャングルはいつもハレのちグゥ リリカル 6課編 クロス元:ジャングルはいつもハレのちグゥ 第一話 第二話 第三話 第四話 TOPページへ このページの先頭へ